恵一の正体

異世界編・1-4

「時空間転移の気配ですね」

一人の男が口を開く。

足元にはパラサイダーの残骸が転がっていた。

先程迄の激しい戦闘は何処吹く風、
男は平然とした様子だった。

「丈が来たか…」
「息子さん、無事に到着ですか」
「疾風に任せてある。
 間違いは無いだろう」
「確かに、アイツなら…」

男は此処で笑顔を見せた。

「轟(トドロキ)」

そう声を掛けたのは丈の父、恵一である。

「お前は初めてだな、丈と会うのは」
「えぇ。お話には聞いてますが」
「どう思う?」
「何がですか?」
「あの子は…
 この世界で生きて行く事が出来るだろうか?」
「…大丈夫ですよ」

轟は静かに頷いた。

「疾風が居ます。
 アイツが守りますよ。
 それに…」
「それに?」
「団長の息子さんです」
「…そうか」

「戻りましょう。
 また新たな兵が来ます」
「あぁ」

恵一はそう言うと勾玉を取り出した。

「本部へ」

勾玉は声に反応すると
眩いばかりに輝き出した。
光に包まれ、2人の姿は掻き消された。

* * * * * *

「お帰りなさい、団長!」

漣は笑顔で2人を迎える。

「俺も居るんだけど…」
「あぁ、解ってる解ってる。
 轟もお疲れ~」
「ったく…」

「G地区のパラサイダーは消滅ですね。
 反応が消えました」
「そうか…」

恵一は画面を見つめた。
険しい視線で。

「…団長?」
「丈は?」
「部屋です。
 まだ熱が出る様で
 疾風が傍に付いてます」
「…時空間転移の影響か?」
「それ以前に何か遭ったみたいですね。
 確かに時空間転移は消耗するものですが…」
「…そうか」

「会われます?」
「いや、目覚めてからにしよう」
「解りました」

漣も轟も余計な追求はしない。
恵一の意見に素直に従っている。

「さて、次の作戦を詰めよう」

恵一は椅子に腰掛けると
新たな作戦を提案した。

* * * * * *

「G地区が開放されたか」

パネルを睨み、男が唸る。

「確かに手薄だとは言え、
 こうも鮮やかにやられるとはな…」

男の個室に何者かが入室する。

「スペードか」
「はい、総帥」

【スペード】と呼ばれたのは
精悍な顔つきの青年だった。
彼もまたパラサイダーなのだ。

「Gが落ちた」
「そうですね」
「指導者は?」
「敵の手に落ちました。
 まぁ、それ相応の最期でしょう」

その言葉に後悔等は無い。
非情な迄の言葉の羅列。

「やりますね、レジスタンスも」
「…やって貰わないと困る。
 人間が減って、食糧不足だ。
 解るだろう?」
「私は解ります。
 しかし総帥、貴方は人間を食しませんから
 関係無いのでは?」

クスッとスペードが笑った。
幼い笑みを浮かべて。

「優秀な部下を失うのは不本意だ」
「光栄です」
「レジスタンスについて判っている事。
 後で照合しよう」
「解りました。此方も情報提示します」
「頼む」
「はい。失礼します」

スペードは静かに部屋を去る。
大画面を背に、
男はその後姿を見送っていた。
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