異世界編・1-5

丈の発熱は治まらない。
青白い顔で唸っている。
かなりの疲労が体を襲うのか。
それとも、別の要因か。

「丈…?」

心配そうに顔を覗き込む疾風に対し、
丈は一言
「頭が痛い…」
と告げた。

「頭痛が要因か…?」

熱を抑える薬も、頭痛を抑える薬も
此処には揃っていない。

どうするべきかと疾風は思案していた。

「苦しいか?」
「いや…大丈夫…」

意識が朦朧とし、
視線さえも定まらない状態で
それでも丈は笑って見せた。

「…強がるな」

それは誰に向けた言葉なのか。

大きな掌をそっと額に当て
疾風はそっと呟いた。

* * * * * *

熱は依然下がらない。
苦しそうな息使い。
体力の消耗故か、
丈はやがて眠りに付いていた。
その傍でじっと彼を見つめる疾風。

「この痣…」

初めて会った時から気になっていた。
首を一周する赤い痣。
何を意味しているのかは解らないが
これも熱の原因なのか。

「せめてお前に何が遭ったか、
 それだけでも知りたい…」

何時から付いた痣なのか。
それが何を意味するのか。
疾風は知りたかった。
例え彼がその事実を知らないとしても。

* * * * * *

「疾風?」

部屋に誰かが入って来た。
漣だ。

「様子は?」
「相変わらずだ。
 熱も引かない」
「眠ったまま?」
「あぁ…」
「もう一度体温測ろうか」

メディカルセットを取り出し、
漣は丈の体を調べ始める。

「…ふぅ。
 表立っての異常は見受けられないよ。
 さっきと一緒。
 倒れる前と変化無し」
「…そうか」
「この地が彼に適してない…って
 訳でも無さそうだし」
「それなら顕著に変化が現れる筈だよな」
「当然」
「それも無い…」
「正直、お手上げだよ…。
 手の施し様が無い」
「……」

「疾風?」
「漣、お前…どう思う?」
「何が?」
「彼のこの首の痣」
「異常な痣だね。
 綺麗に首を一周してる。
 まるで…」

そう言い掛け、漣は口を閉ざした。

「どうした?」
「…何でもないよ」
「言えよ」
「…怒らないでよ」
「怒る訳無いだろ?」

「あくまでも仮説だよ。
 …綺麗過ぎるんだ、この痣。
 まるで切断された後の様に」
「切断…?」
「あくまでも仮説だからね…」

「…当たりかもな、それ」
「疾風?」

「彼は三つ目の亜種だった。
 三つ目はこの世に彼一人。
 それ故にいつも狙われていた…」

過去に思いを巡らし、
疾風は溜息を吐いた。

「過去の遺恨か。この痣は…」

そっと彼の首の痣を撫で、
疾風は言葉を発した。
Home Index ←Back Next→