過去の意識

異世界編・1-6

深い深い眠りが醒め、
彼の視線は誰かを探しているかの様だった。

「丈…?」

呼び声に反応し、
顔を其方に向ける。

「…疾風」
「丈…」

その発音は今迄の彼の物とは異なっていた。
昔、遥か昔に彼等が使っていた言語。
今の彼が【知る筈の無い】言語だった。

「丈…俺が解るか?」

疾風も同じ言語で返してみる。

「解る…。此処は?
 俺、無事なのか?」

「何が遭った?」
「美雨を逃がして…
 その後、大勢の人間に囲まれた。
 翼をもぎ取られて…
 首を落とされた筈…」
「丈…?」
「どうして生きてるんだ?
 アレは夢なのか?
 それに此処は…」

「良いんだ。此処は安全だから。
 ゆっくり休むと良い…」
「疾風…」

丈はそっと疾風の胸に体を預けた。

「御免…。
 美雨の事、託されてたのに…」
「気にするな…」
「……」
「…丈?」

「また、眠ったみたいだね」

漣がそっと口を挟む。

「今のは…?」
「よく解らないけど…
 過去の彼の記憶が
 一時的に再生したみたいだ」
「俺の知らない、丈の最期…か」

「美雨は無事だったみたいだね」
「コイツの事だ。
 体を張って守ってくれたに違いない」

愛しさが込み上げてくる。
意識の無い丈の体を
そっとベッドに横たわらせ、
疾風は再び彼を見つめていた。

* * * * * *

「綺麗な翼だった…」

丈の寝顔を見つめながら
ボソッと疾風が呟いた。

「真紅の4枚羽根。
 額には真っ赤な瞳。
 憧れたものだ。
 その美しさに…」
「不思議な魅力があったよね。
 男にしておくのが勿体無い位」
「翼を奪われ…
 その挙句が…」

自分の知らない丈の最期。
その意味が痣に刻まれている。

堪らなかった。
胸が張り裂けそうになる。

「終わった事だよ、疾風…」

漣はそう言うしかなかった。
事実、過去の話なのだ。

「今は彼の回復を待つしかないよ」
「…俺は此処に居る」
「解った。
 何か異常が有ったら教えて。
 僕、会議に戻るから…」
「済まないな…」
「気にしないで」

漣はそっと微笑むと
静かに部屋を後にした。

* * * * * *

会議室。

其処には恵一と轟が
深刻な顔で話し込んでいる最中だった。

「遅くなりました」
「で、どうだった?」

心配そうに轟が尋ねる。

「熱は依然下がりません。
 記憶の混濁か、
 過去の丈の意識が表れたみたいです」
「過去の…」
「暫くは様子を診ます」
「済まないな、漣」
「いえ、平気ですよ。
大切な仲間ですから」

漣は微笑んでいた。
轟もそれに倣って顔を和ませる。

恵一の視線が
一瞬だけだが穏やかになった。
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