彼の視線は誰かを探しているかの様だった。
「丈…?」
呼び声に反応し、
顔を其方に向ける。
「…疾風」
「丈…」
その発音は今迄の彼の物とは異なっていた。
昔、遥か昔に彼等が使っていた言語。
今の彼が【知る筈の無い】言語だった。
「丈…俺が解るか?」
疾風も同じ言語で返してみる。
「解る…。此処は?
俺、無事なのか?」
「何が遭った?」
「美雨を逃がして…
その後、大勢の人間に囲まれた。
翼をもぎ取られて…
首を落とされた筈…」
「丈…?」
「どうして生きてるんだ?
アレは夢なのか?
それに此処は…」
「良いんだ。此処は安全だから。
ゆっくり休むと良い…」
「疾風…」
丈はそっと疾風の胸に体を預けた。
「御免…。
美雨の事、託されてたのに…」
「気にするな…」
「……」
「…丈?」
「また、眠ったみたいだね」
漣がそっと口を挟む。
「今のは…?」
「よく解らないけど…
過去の彼の記憶が
一時的に再生したみたいだ」
「俺の知らない、丈の最期…か」
「美雨は無事だったみたいだね」
「コイツの事だ。
体を張って守ってくれたに違いない」
愛しさが込み上げてくる。
意識の無い丈の体を
そっとベッドに横たわらせ、
疾風は再び彼を見つめていた。
「綺麗な翼だった…」
丈の寝顔を見つめながら
ボソッと疾風が呟いた。
「真紅の4枚羽根。
額には真っ赤な瞳。
憧れたものだ。
その美しさに…」
「不思議な魅力があったよね。
男にしておくのが勿体無い位」
「翼を奪われ…
その挙句が…」
自分の知らない丈の最期。
その意味が痣に刻まれている。
堪らなかった。
胸が張り裂けそうになる。
「終わった事だよ、疾風…」
漣はそう言うしかなかった。
事実、過去の話なのだ。
「今は彼の回復を待つしかないよ」
「…俺は此処に居る」
「解った。
何か異常が有ったら教えて。
僕、会議に戻るから…」
「済まないな…」
「気にしないで」
漣はそっと微笑むと
静かに部屋を後にした。
会議室。
其処には恵一と轟が
深刻な顔で話し込んでいる最中だった。
「遅くなりました」
「で、どうだった?」
心配そうに轟が尋ねる。
「熱は依然下がりません。
記憶の混濁か、
過去の丈の意識が表れたみたいです」
「過去の…」
「暫くは様子を診ます」
「済まないな、漣」
「いえ、平気ですよ。
大切な仲間ですから」
漣は微笑んでいた。
轟もそれに倣って顔を和ませる。
恵一の視線が
一瞬だけだが穏やかになった。