シャワー1つ浴びれないと
不便だと思っていたが
言語は自分達が使っていた
50年前の物に合わせてある。
漣なりの配慮だった。
「此処を押して…
うわっ、本当だ。
吸い上げるんだな、これ」
子供の頃
掃除機に吸い込まれた
記憶が有ったのを思い出し
思わず苦笑が零れた。
「興味だけは人一倍だったか。
変わらねぇよな、本当…」
体の汚れを吸い取られるだけなのに
妙な安心感がある。
漸く生活が出来る、その安心感か。
「これからは…この時代で
俺は生きていくんだ…」
静かな決意。
もう、後ろは振り返らない。
どんな事が遭っても、この時代と共に生きる。
それが、丈の表情を
一層凛々しく引き立てた。
疾風は自分の部屋で
一人、思い出していた。
『彼は鍵なんだ』
漣は静かにそう言った。
『鍵?』
『うん。彼の存在は鍵になる。
これからの戦いに於いても。
それと……』
『それと?』
『…うん、美雨の件に関しても。
情報を握っているのは彼だけだ』
漣の表情は重い。
疾風を気遣っている事は
言わずとも解る。
ただ、それ以外にも彼の懸念は窺える。
『彼と会う事が出来れば
きっと道は開かれる…』
疾風も又 その言葉を信じていた。
部屋の前に誰かの気配がする。
疾風は鍵を開錠した。
「…会議、終わったよ」
待っていたのは漣だった。
「気を付けてよ。
彼、疲労の蓄積から発熱してるかも
知れないんだから」
漣は溜息を吐いて
丈の部屋へと入っていく。
「軽く診ておくよ」
「頼む…」
「後で話、団長から聞いておいてね」
「…解った」
漣の姿が廊下へ消えると
疾風は煙草を口に銜えた。