新たな舞台

異世界編・1-8

思ったよりも使い易い装置だった。

シャワー1つ浴びれないと
不便だと思っていたが
言語は自分達が使っていた
50年前の物に合わせてある。

漣なりの配慮だった。

「此処を押して…
 うわっ、本当だ。
 吸い上げるんだな、これ」

子供の頃
掃除機に吸い込まれた
記憶が有ったのを思い出し
思わず苦笑が零れた。

「興味だけは人一倍だったか。
 変わらねぇよな、本当…」

体の汚れを吸い取られるだけなのに
妙な安心感がある。
漸く生活が出来る、その安心感か。

「これからは…この時代で
 俺は生きていくんだ…」

静かな決意。
もう、後ろは振り返らない。
どんな事が遭っても、この時代と共に生きる。

それが、丈の表情を
一層凛々しく引き立てた。

* * * * * *

疾風は自分の部屋で
一人、思い出していた。

『彼は鍵なんだ』

漣は静かにそう言った。

『鍵?』
『うん。彼の存在は鍵になる。
 これからの戦いに於いても。
 それと……』
『それと?』

『…うん、美雨の件に関しても。
 情報を握っているのは彼だけだ』

漣の表情は重い。
疾風を気遣っている事は
言わずとも解る。
ただ、それ以外にも彼の懸念は窺える。

『彼と会う事が出来れば
 きっと道は開かれる…』

疾風も又 その言葉を信じていた。

* * * * * *

部屋の前に誰かの気配がする。
疾風は鍵を開錠した。

「…会議、終わったよ」

待っていたのは漣だった。

「気を付けてよ。
 彼、疲労の蓄積から発熱してるかも
 知れないんだから」

漣は溜息を吐いて
丈の部屋へと入っていく。

「軽く診ておくよ」
「頼む…」
「後で話、団長から聞いておいてね」
「…解った」

漣の姿が廊下へ消えると
疾風は煙草を口に銜えた。
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