強襲・1

パラサイダー編・2

見渡す限りの荒れ果てた様。
崩れ掛けたビル郡。
どんよりとした雲。
微かに漏れる太陽の光。

「…これが」
「50年後の日本だ」
「……」

辺りは静まり返っている。

「音の無い世界…。
 まるで【コンクリート・フォレスト】だ」
「…」
「この世界が、疾風さん達の故郷…」
「あぁ。地べたに這い蹲って生きて来た。
 団長に会う迄はな」
「団長…。親父か」
「そうだ…」

二人はアジトの結界外に足を進めた。

「…静かだな」
「あぁ。この辺りは誰も住んでいない。
 それより…」
「?」
「頭痛は、大丈夫か?」
「何とも無いよ」
「それなら良いんだが…」

疾風も気が付かなかった訳ではない。
最善の注意を払いながら丈の傍に居るのだ。

謎の熱と頭痛。
丈の体を蝕む何か。
漣はそれを【脳の欠陥】だと説明したが
疾風には納得出来なかった。

本能的に【違う何か】を感じ取っていた。
その正体が知りたかったから
丈と共に此処に居るのかも知れない。

「そろそろ戻るか?」
「そうだね。皆が心配するといけないし…」

そう言い掛け、丈の表情が一変する。

「丈?」
「誰か…居る」
「? まさか…」
「気配を感じる」

丈はそう言って、或る一点を見つめた。

* * * * * *

「誰だ?」

丈の声に、景色が大きく揺らめいた。

「転送? パラサイダーか!」
「…流石はスザク。
 転送前の我々の気配を嗅ぎ取ったか」
「スザク…?」

「貴様は…」
疾風の表情が変わる。

穏やかな笑みは消え、
其処には戦士としての彼が存在していた。
鬼気迫る形相。
初めて見る疾風の横顔だった。

「クラブ…。厄介な奴が…」
「パラサイダーの…?」
「あぁ、【幹部】クラスだ」
「お初にお目に掛かる、スザク。
 我が名はクラブ。
 パラサイダー四天王が一人」

「俺はそんな名前じゃない。
 門田 丈だっ!!」

丈はそう言うと空手の構えを取った。
素手でパラサイダーと戦う気である。
無茶極まりない。

「下がれ、丈。
 お前にはまだ無理だ」

疾風は懐から金色の物体を取り出した。

「それは?」
「五鈷杵(ごこしょ)。
 俺達の専用武器だ。見てろ…」

そう言うと両目を閉じ、念じた。
五鈷杵が見る見るうちにライフルへと変化する。

「形が…変わった」
「行くぜ、クラブっ!!」

疾風が狙いを定め、数発発砲した。

するとクラブの前に
部下のパラサイダーが現われ
彼をガードする。
疾風の放った弾は全て
そのパラサイダーの体に吸収された。

「ちぃ! 銃撃対応型か。
 俺の苦手なタイプだぜ」

パラサイダー達は群れを成して疾風を狙う。

「丈、逃げろ!」
「でも…」
「俺の事は気にするな!
 アジトへ向かえっ!!」

躊躇する丈を一喝し、
疾風は更にライフルを発砲し続ける。

「疾風さん…」

敵に背を向けたくは無い。
だが自分が居れば彼の邪魔になる。
そう思った丈は
アジトに向かって駆け出そうとした。

その時…。

「う…うわ…あっ!!」

脳裏に鋭く走る痛み。
最悪の状況だった。
あの頭痛が彼を襲ったのだ。

「い…痛い…。
 く、こんな…所で……」

足を動かす事も出来ず
そのまま座り込んでしまった。

「丈っ!!」

疾風は駆け寄ろうとするが
パラサイダーがそれを邪魔する。

「どうやら相当進んでいるようだな」

意味深な言葉を発し、
クラブが丈の傍へと歩み寄る。

「く…来るな……」
「私が必要なのは君なのでな。
 一緒に来てもらうよ、スザク」

力が抜けていく。
そのまま気を失った丈を抱き上げ、
クラブは部下に命令した。

「セイリュウはお前達に任せる」
「待て、クラブ! 丈をどうするつもりだっ?!」

疾風の叫びには答えず、
クラブはそのまま姿を消した。

「丈…」

只一人残された疾風にパラサイダーが迫る。

「どけぇーーーーーっ!!」

怒りが彼の気を増幅させた。
彼を中心に竜巻が発生する。

【呪】の発動だ。

左掌に蒼い勾玉が現われ、
風がパラサイダー達を切り裂いていく。

「丈ぉーーーっ!!」

彼の叫びは届かない。
疾風は拳を握り締め、己の無力さを呪った。
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