丈は其処で漸く目を覚ました。
「…此処、は?」
「お前の部屋だよ」
優しく髪を撫でる疾風。
その目元は微かに光を放っていた。
涙、である。
妹が行方不明になった時にも
泣かなかった漢が
今、恋しい存在の無事を確認して
涙を流していた。
「疾風…さん」
優しい笑みを浮かべ、
丈はそっと彼の目元に触れた。
誰にも見せない。
彼の涙を隠す様に。
「丈…」
想いを込め、疾風はそっと口付けを送る。
丈はそれを素直に受け止めた。
長い、長い時間が流れていった。
「無事に送り届けられた様だな」
クラブはそっと姿を現した。
結界の中に佇むレジスタンスのアジト。
其処に戻った丈。
「次に会う時は…敵か。
まぁ、彼は何も覚えていない。
躊躇する事も無いだろう」
説明し難い思いが
クラブの心のしこりと成って残る。
「戻るか…」
クラブは風の様に姿を消した。
後に残ったのは
嘗て【パラサイダーだった物】の残骸だけだった。
「パラサイダーが全滅?」
恵一は轟から報告を聞き、
眉間に皺を寄せた。
「…誰の仕業だ?」
「丈ですかね?」
「眠ったままか?
幾らあの子が亜種とは言え、
【呪】にも目覚めていない状態で…」
「それも、そうですが…」
「飢餓による気の狂いで
仲間割れ起こしたんじゃないの?」
「何故この時期に?
それならもっと早くても良い筈だろ?」
「う~ん…」
「団長。気になる点がもう一点」
「何だ?」
「パラサイダーは全て
【銃器】で撃たれていました」
「銃使い…」
「まさか…クラブ?」
「だろうな。四天王が部下を…」
その真意は測れない。
恵一は何かを考え込んだ。
「団長?」
「御苦労だった、轟。
休んでくれ」
「はい!」
「お疲れ様、轟。
後で丈が目を覚ましたかだけ
確認してくれる?」
「また検査か?」
「一応ね」
「解った」
轟はそう言うと自室へと戻った。
「団長…クラブが、丈の為に?」
「判らんな…」
恵一もまた考えあぐねていた。
四天王の一人、クラブ。
その不気味な存在と行動。
読めない事だらけだ。
「油断ならない。
それは確実だろう…」
「そうですね」
漣もまた真剣な表情で静かに頷いた。
「疾風、入るぞ!」
轟の声に思わず丈は萎縮した。
「…又かよ」
「悪かったな。で、丈は?」
「あ…大丈夫…」
照れ臭そうに丈は俯き
何とか返事をした。
2人きりの時間に安心して身を委ねていたからか
丈にとって轟の訪れは予想外だった様だ。
「睨むなよ、疾風。
丈、後でで良いから
漣の所へ行ってくれ」
「え…?」
「検査だと」
「ん…。解った……」
「もう良いだろう? 早く出ろ」
「やれやれ。御邪魔様!」
轟は呆れ口調ながらも
苦笑を浮かべ、部屋を後にした。