再 会

パラサイダー編・10

アジトの自室。
丈は其処で漸く目を覚ました。

「…此処、は?」
「お前の部屋だよ」

優しく髪を撫でる疾風。
その目元は微かに光を放っていた。

涙、である。

妹が行方不明になった時にも
泣かなかった漢が
今、恋しい存在の無事を確認して
涙を流していた。

「疾風…さん」

優しい笑みを浮かべ、
丈はそっと彼の目元に触れた。

誰にも見せない。
彼の涙を隠す様に。

「丈…」

想いを込め、疾風はそっと口付けを送る。
丈はそれを素直に受け止めた。
長い、長い時間が流れていった。

* * * * * *

「無事に送り届けられた様だな」

クラブはそっと姿を現した。

結界の中に佇むレジスタンスのアジト。
其処に戻った丈。

「次に会う時は…敵か。
 まぁ、彼は何も覚えていない。
 躊躇する事も無いだろう」

説明し難い思いが
クラブの心のしこりと成って残る。

「戻るか…」

クラブは風の様に姿を消した。

後に残ったのは
嘗て【パラサイダーだった物】の残骸だけだった。

* * * * * *

「パラサイダーが全滅?」

恵一は轟から報告を聞き、
眉間に皺を寄せた。

「…誰の仕業だ?」
「丈ですかね?」
「眠ったままか?
 幾らあの子が亜種とは言え、
 【呪】にも目覚めていない状態で…」
「それも、そうですが…」

「飢餓による気の狂いで
 仲間割れ起こしたんじゃないの?」
「何故この時期に?
 それならもっと早くても良い筈だろ?」
「う~ん…」

「団長。気になる点がもう一点」
「何だ?」
「パラサイダーは全て
 【銃器】で撃たれていました」
「銃使い…」
「まさか…クラブ?」
「だろうな。四天王が部下を…」

その真意は測れない。
恵一は何かを考え込んだ。

「団長?」
「御苦労だった、轟。
 休んでくれ」
「はい!」
「お疲れ様、轟。
 後で丈が目を覚ましたかだけ
 確認してくれる?」
「また検査か?」
「一応ね」
「解った」

轟はそう言うと自室へと戻った。

「団長…クラブが、丈の為に?」
「判らんな…」

恵一もまた考えあぐねていた。

四天王の一人、クラブ。
その不気味な存在と行動。
読めない事だらけだ。

「油断ならない。
 それは確実だろう…」
「そうですね」

漣もまた真剣な表情で静かに頷いた。

* * * * * *

「疾風、入るぞ!」

轟の声に思わず丈は萎縮した。

「…又かよ」
「悪かったな。で、丈は?」
「あ…大丈夫…」

照れ臭そうに丈は俯き
何とか返事をした。
2人きりの時間に安心して身を委ねていたからか
丈にとって轟の訪れは予想外だった様だ。

「睨むなよ、疾風。
 丈、後でで良いから
 漣の所へ行ってくれ」
「え…?」
「検査だと」
「ん…。解った……」
「もう良いだろう? 早く出ろ」
「やれやれ。御邪魔様!」

轟は呆れ口調ながらも
苦笑を浮かべ、部屋を後にした。
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