N-1地区

パラサイダー編・9

N-1地区。

腹を空かせたパラサイダー達が
結界の周囲を囲んでいる。
物騒な地区である。

クラブは静かに転送されてきた。
白い上下の衣服に身を包んだ丈。
青と紫のラインが交差するシンプルなデザイン。

「この目で確認出来ないのが残念だな。
お前ならさぞこの衣装も似合うだろうに」

クラブはそっと微笑み、彼を大地に寝かせた。

空かさずパラサイダー達が集まってくる。

「人間ダ」
「人間ダ」
「食ウ」
「食ウ」

「下等動物が…」

丈に群がり襲い掛かるパラサイダー。
クラブは躊躇う事無く部下を撃った。
次から次へと連射し
片っ端から倒していく。

「雑魚共め。
 見張りもろくに出来ないとは」

周辺のパラサイダーは呆気なく全滅した。

クラブは総帥の命令通り
丈の安全を確保すると
不意に姿をくらませた。

* * * * * *

「N-1地区に生体反応!」

漣がモニターを見て叫んだ。
全員が一斉にモニターを凝視する。

「人間か?」
「いえ、団長…これは…」
「丈…」
「解るの、疾風?」
「…丈だ、間違いない」
「団長…」

「恐らく疾風の言う通りだろう。
 しかしN-1か…。長居は危険だな」
「そうですね。
 あの地域には
 終始腹を空かせた奴等が
 密集してますから…」

「疾風、轟」
「はい」
「丈を迎えに行ってくれ」
「了解」
「解りました」
「頼んだよ、二人共!」

二人は互いに顔を見合わせ、頷くと
勾玉を発動させた。
【呪】で空間転移を行うのだ。
こうすれば瞬間的に或る程度の距離を移動できる。

眩い二種類の光が交差し、
二人を飲み込み…消滅した。

「いつもながら鮮やかだな」
「えぇ、綺麗ですね」
「【呪】か…」
「団長?」

「亜種のみが許された神の技。
 何度見ても心動かされる」
「団長は人間だから…
 使えないんですよね」
「亜種と言っても
 【勾玉】に認められなければ
 使えないんだろう?」
「そうですけど…」

「認めて貰えるのかな、丈は…?」
「きっと…大丈夫ですよ」

漣は微笑を浮かべた。

「だって、団長の息子だから」

恵一は嬉しそうに漣の柔らかな髪を撫でた。

「有り難う、漣」

満足そうに無邪気な微笑を浮かべ、
漣は頷いていた。

* * * * * *

「あそこだ!」

轟がまず異変に気付いた。

死屍累々と連なるパラサイダーの屍。
そしてその中央に眠る影。

「丈っ!!」

疾風は真っ直ぐ駆け出し、
彼を抱き締めた。

「丈! 丈っ!!」
「疾風、大丈夫。
 眠っているだけだ。
 ほら、外傷も無い…」
「轟…」
「パラサイダーのこの有様は
 全く想定外だったな。
 まぁ、丈の無事も確認出来たから
 文句は無いが。
 一応団長に報告しておかないとな」
「…あぁ」

疾風はそっと丈を抱き上げると
真っ直ぐアジトに向かって歩き出した。
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