別 離

パラサイダー編・5

「ん…」

気が付いた時、
丈は暗室に寝かされていた。
上着とズボンを着衣した状態。
ベッドに横たわり、天井を見上げる。

「…此処は、何処だ?」

ゆっくりと体を起こす。
見覚えの無い壁。
そして扉。

「…俺は……?」

必死に記憶の糸を手繰り寄せるが
何も思い出せない。

すると。

ガチャリ

重い扉が開き、
眩い光が彼の両目を襲う。

「くっ!」
「目が覚めたようだな、スザク」
「ス…ザク?」

男は静かに丈に歩み寄る。
クラブだった。

「どうだ、気分は?」
「誰だよ、お前?」
「私の質問に答えろ」

有無を言わせぬ迫力に
丈は少したじろいでしまった。

「…悪くは、無い」
「ならば良い」
「待てよ、今度はこっちの質問だ。
 お前は誰だ?
 どうして俺は此処に居る?」
「質問に対して一つだけ答えよう。
 俺はクラブ。
 パラサイダー四天王が一人」
「パラサイダー?
 じゃあ此処は…」

クラブは何も言わない。
沈黙が答えだった。

「囚われの身かよ…」
ホトホト情けなくなった。
自分の立場に。

「ゆっくり休め。
 どうせお前は此処から出る事は叶わない」
「…あぁ、そうかい」

思い切り悪態を吐きながら
丈は何とか脱出が出来ないものかと
考えあぐねていた。

* * * * * *

夜を感じる様な重い空気。
アジトとは全く違う雰囲気だった。

「…疾風さん」

離れ離れになってしまった彼を想う。
今、どうしているのだろうか。
どうして自分が此処に居るのか
解らない丈にとって
疾風の【今】はとても気になる事だった。

「無事…なのかな?」

自分の事よりも其方の方が気になった。

「早く…会いたいよ」

一人きりという環境が
彼を心細くさせる。

グッと歯を噛み締め、
丈は悔しさを滲ませた。

* * * * * *

その頃。
疾風もまた、自室のベッドに体を沈め
天井を黙って見つめていた。

あどけなさの残る笑顔。
自分を見つめる真っ直ぐな瞳。

「丈…」

今頃どんな目に遭っているのだろう。
そもそも生きているのだろうか?

そう思った刹那、
疾風は壁を思い切り殴りつけた。

「くっ…」

拳から流れ出す血が
妙に熱い。
痛みは拳ではなく心にこそあった。

こんなにも不安にさせる。
傍に居ないだけで。
こんなにも心が痛む。
姿が見えないだけで。

「丈…無事なのか…?」

疾風は窓に浮かぶ月に向かって
そっと呟いた。
月明かりの中、
丈の笑顔が幻の様に浮かんでは消えた。

煙草に火を点け、
疾風はまたベッドに体を委ねた。
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