最 愛

パラサイダー編・6

不意に扉が開いた。

「…」

またクラブだろうか。
そう思ったからこそ
丈はベッドの上から動かなかった。

影は素早く彼の体を押さえ込み、
その唇を奪う。
クラブでは無いと気付いた瞬間だった。

上着を羽織っているだけで
シャツを身に着けている訳ではない。
露になっている肌を弄られ
不快感から丈は激しく抵抗した。

「なかなか活きの良い獲物だ」
「…誰だ?」
「スペード。お前の主人だよ」
「巫山戯るな! 誰が…!!」

素早くベッドから離れ
丈は空手の構えを取った。
素手でも戦わなければならない。
そう思ったのだ。

「ほぅ、戦うってか?」
「…くっ」

丈は素早く蹴りを繰り出した。
難なくスペードはその足を受け止め
丈をベッドに叩きつける。

「うわっ!」
「…丈夫な体だな。
 これなら期待出来る」
「期待? 何を…」

その言葉はスペードの唇で塞がれた。
更なる嫌悪感が増す。

「お前は俺の子を産むんだ」
「…莫迦か? 俺は男だぞ?
 そんな事……」
「生憎、俺はオスメス問わず
 孕ませる事が出来るんでね」
「……」

スペードの目は実に嬉しそうに、
舐める様に丈の体を見つめていた。

「い…嫌だ…」

何とかスペードの呪縛から逃れようと
丈は体を動かしてみるが
一向に身動きが取れない。

細身である筈のスペードの力は凄まじく強い。
力だけではまるで敵わなかった。

「まずは味見をしてみるか」

『嫌だ…、助けて……』

悔しさと恐怖が丈の心に広がる。
瞳から一筋、涙が零れた。

『疾風さん…、助けて……』

心の中で助けを求めていた。

* * * * * *

「丈?」

自室で疾風は確かに丈の声を聞いた。

慌てて部屋を飛び出し、
アジトのエントランスへ駆けつける。

「…まさか、な」

幻だったのだろうか。
自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。

「あれは…」

助けを請う声だった。
丈は今、苦しんでいる。
それだけが伝わってきていた。

「…丈、何処に居るんだ?」

それさえ判れば今すぐ飛んでいくものを。
たった一人でも助けに向かえるものを…。

「俺は…無力だ」

疾風は自分を呪っていた。
最愛の存在を又、彼は守れなかったのだ。

「美雨…丈……」

外は雨が降り出している。
空を見上げ、疾風は呟いた。

「何処に居るんだ?
俺の大切な恋人と妹は…?」

そんな疾風の後ろ姿を
恵一は哀しそうに見つめていた。
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