帰還へ

パラサイダー編・8

「喜べ、スザク。
 お前の帰還が決まった」

部屋に入るなり、
クラブはそう言った。
先程のスペードの件からか
丈はクラブの話を黙って聞いている。

「嬉しくないのか?」
「怪しんでいるんだよ」
「成程、的確な判断だ」
「?」

「嘘かも知れない。
 敵の言葉を鵜呑みにしないのは
 優れた戦士の資質だ」
「俺は…」

刻まれた傷が痛む。
まるでスペードに歯が立たなかった。

「悔しいか」
「…あぁ」
「なら、強くなる事だ。
 誰よりもな」

クラブは丈の腕を取り、
傷の状態を確認した。
尤も手探りでだが。

「…こんな暗い部屋でサングラスか?」

いぶかしむ丈。
するとクラブはそっと微笑み、
サングラスを外した。

* * * * * *

「お前…」
「驚いたか?」
「…無いのか、目が」
「四天王は異形揃いでね。
 だからこそ他の奴よりも
 強いのかも知れんな」
「……」

「お前も異形だろう、スザク。
 この世界に三つ目は存在しない」
「三つ目?」
「鏡を見てみろ」
「……!」

其処で初めて自分の顔を見た。
額に輝く赤い瞳。
真っ直ぐに自分を見つめる深い紅。

「スザク、お前もまた異形の存在。
 人間に疎まれ、軽蔑され、さげずまれる。
 だから戦うのだ、我々は。
 そして、食らう…人間を」
「俺は…」
「お前は亜種。我々とは別の種族だ。
 人を食わずとも生きていける」
「…クラブ、だったな」
「何だ?」
「さっきは…有り難う。
 助けてくれて」
「総帥の御意志だ」
「…それでも、アンタは助けてくれた」
「素直な青年だな」

クラブはサングラスを掛け、
丈に一粒の錠剤を渡した。

「これは?」
「傷に効く。飲んでおくが良い…」
「…解った」

丈は躊躇わずに錠剤を飲み込んだ。

その潔さをクラブは気に入った。
総帥以外で此処まで興味を持ったのは
彼が初めてである。
何故か、惹かれる。

「惜しいな…。
 お前がこの場を去るのは…」

クラブがふと漏らした本音。

それは丈の耳に届かなかった。
総帥から渡された薬の影響で
丈は再び眠りに付いたからだ。

同時に体の自己治癒が始まる。
急速な速さで。

「これがスザクの力か…」

その力強さをクラブは肌で感じ取っていた。

* * * * * *

クラブに抱きかかえられ、
丈は眠ったまま総帥の前に運ばれた。

「N-1地区に座標を合わせた。
 奴等のアジトに近い位置だ」
「解っております。
 今回は彼を送る事が任務。
 周辺の兵は始末します」
「世話を掛けるな、クラブ」
「貴方様のお力になれる事が
 我が喜びです、総帥」
「スザクを…頼む」
「御意」

転送装置に入るクラブと丈を
総帥は黙って見つめていた。

「また会おう、青年…」

総帥の言葉は静かに眠る丈に送られた。
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