逃避行

過去編・3

彼等『亜種人類』は
生まれながらにして
人間とは異なる能力を持っていた。

一つは変身能力。
そしてもう一つは『呪』。
天変地異を発生させる
魔法の様な術だ。

その特殊能力故に
彼等は常に人間に狙われ続け、
逃げるように旅を続けていた。

彼等だけの安住の地を求めて。

* * * * * *

丈は静かに夜空を見上げた。

「星が流れてる…」
「そうだな」

疾風も又 同じ様に夜空を見上げた。

「早く…空を駆けたいな。お前と…」
「疾風…」
「お前と共に駆けたい。大空を…」
「俺も…飛びたい。
 翼を広げて思い切り空を駆けたい…」

切ない願い。
それさえも叶わないのが
今の彼等なのだ。

「どうして…こんな暮らしを続けるんだろう。
 俺達、何もしてない。
 ただ…少し他の種族と違うだけで…」
「『人間』はそれが許せないんだろう。
 無い物強請りをする種族。それが『人間』だ」
「話し合えないのかな?」
「無理だな。
 向こうは俺達を『人』とは見ていない」
「……」

悲しそうな瞳で丈は空を見上げた。
涙が一筋流れる。

「どうして…解り合えないんだろう…?」

丈の願いは単純だ。
人種を超えた交流。
それが叶えれば逃げ続ける旅などしなくても良い。

「丈…」

疾風はそっと彼を抱き締めた。

「泣くな…。お前の所為じゃない」
「疾風…」

哀しみは癒えない。
何時まで続くのか。
この苦しみは…。

* * * * * *

旅が再び始まった。
自分達の楽園を求める旅。

一体何時になれば辿り着くのだろう。
何者にも襲われない
安全な楽園は…。

厳しい山間を、深い森を超え、
彼等は只歩き続けた。

体力が尽き、倒れる者も出た。
決して少なくは無い犠牲。
判っていても助け上げる事が出来ない現実。

心に傷を負いながら、
生き残った者は
更に先へ進まなければならない。

丈は何も話さなかった。
黙ったままただ歩いている。
険しい顔のまま。
見せた事の無い表情だった。

「丈…」

助けられなかった事を悔やんでいるのだろう。
そして己を責めている。
そう云う男である。
それは疾風が一番よく知っていた。

「…忘れさせてやらないと
 アイツが参ってしまう…」
「疾風」
「何だ、漣?」
「丈。心配だね…」
「あぁ…」
「励ましてやってよ。
 この森を抜けたら又、暫く休むんだろう?」
「休息があれば、な」
「頼んだよ。
 多分丈は疾風じゃないと駄目なんだ」
「…解ってる」

疾風はそっと呟いて丈の後ろ姿を見つめた。
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