漸く彼等は辿り着いた。
目的地。
誰も居ない広々とした草原。
山の中腹に位置する其処は
正に楽園だった。
「着いた…」
誰とも無く口にし、
子供達は草原を駆け巡る。
疲れなど吹き飛んだ。
漸く辿り着いたのだ。
安住の地に。
「丈!」
子供の一人が叫ぶ。
「飛んでよ!
此処なら大丈夫なんでしょ?」
「そうだよ!
丈の羽根が見たいよ!!」
丈は困惑した笑みを浮かべたが、
恵一の表情を見て静かに頷いた。
「じゃあ…一緒に飛ぼう!」
「わぁ~~~い!!」
丈の背中から
大きく輝く4枚の翼が現れる。
それらを羽ばたかせ、彼は微笑んだ。
「一人づつおいで。順番だよ」
「うん!」
丈は一人の少年を抱き上げると
力強く地面を蹴り上げた。
一瞬のうちに彼等の体は
大きな青い空に飲み込まれる。
「風が気持ち良いね!」
子供の声に丈は静かに笑った。
此処に辿り着くまで
多くの者を失った。
彼等の分まで生きたい。
下に広がる小さな風景を見つめながら
丈は心の中で何度も思っていた。
その日は宴を開いた。
丈や疾風達は楽器を奏で、
美雨が巫女の舞を披露する。
『祝福』の舞だ。
それを見ながら
恵一達、長老組は酒を酌み交わした。
子供達は無邪気に踊り、
賑やかな宴となった。
演奏しながら
丈の目は美雨を追っていた。
又 美雨の目も
丈を見つめていた。
お互いに思うところは有るのだろう。
だが何も言わない。
そんな幼馴染の関係。
疾風だけは二人の事を良く理解していた。
巫女であるが故に女の幸せを捨てざるを得ない
哀れな妹。
そして将来の一族の繁栄を担う幼馴染。
疾風はそっと目を閉じて楽器を奏でた。
呪われし一族なのかも知れない。
そう、心に思ったりもした。
宴は明け方まで続いた。
「おはよう」
眠る疾風の下に丈が現れた。
優しい声でそっと彼を呼んでいる。
「どうした?」
「空、見て」
「そら…?」
虹だった。
山々を繋ぐように虹が掛かっている。
「飛べる?」
「今か? あぁ…」
「約束だよ。一緒に、空を翔けよう」
「そうだな。虹を捕まえるか」
疾風はゆっくりと起き上がると
大きな漆黒の翼が背中に現われた。
「本気だな。俺も負けないから」
丈も同じ様に赤い翼を羽ばたかせる。
二人はほぼ同時に大地を蹴り、
朝日が輝く空へと飛び込んだ。
嬉しそうに空を翔ける二人の姿を
美雨は寂しそうに見つめていた。
そしてもう一人、
恵一も意味有り気な表情で見つめていた。