到 着

過去編・4

幾つもの森と山を抜け、
漸く彼等は辿り着いた。

目的地。

誰も居ない広々とした草原。
山の中腹に位置する其処は
正に楽園だった。

「着いた…」

誰とも無く口にし、
子供達は草原を駆け巡る。

疲れなど吹き飛んだ。
漸く辿り着いたのだ。
安住の地に。

「丈!」

子供の一人が叫ぶ。

「飛んでよ!
 此処なら大丈夫なんでしょ?」
「そうだよ!
 丈の羽根が見たいよ!!」

丈は困惑した笑みを浮かべたが、
恵一の表情を見て静かに頷いた。

「じゃあ…一緒に飛ぼう!」
「わぁ~~~い!!」

丈の背中から
大きく輝く4枚の翼が現れる。
それらを羽ばたかせ、彼は微笑んだ。

「一人づつおいで。順番だよ」
「うん!」

丈は一人の少年を抱き上げると
力強く地面を蹴り上げた。

一瞬のうちに彼等の体は
大きな青い空に飲み込まれる。

「風が気持ち良いね!」

子供の声に丈は静かに笑った。

此処に辿り着くまで
多くの者を失った。
彼等の分まで生きたい。

下に広がる小さな風景を見つめながら
丈は心の中で何度も思っていた。

* * * * * *

その日は宴を開いた。

丈や疾風達は楽器を奏で、
美雨が巫女の舞を披露する。

『祝福』の舞だ。

それを見ながら
恵一達、長老組は酒を酌み交わした。
子供達は無邪気に踊り、
賑やかな宴となった。

演奏しながら
丈の目は美雨を追っていた。
又 美雨の目も
丈を見つめていた。
お互いに思うところは有るのだろう。
だが何も言わない。
そんな幼馴染の関係。

疾風だけは二人の事を良く理解していた。
巫女であるが故に女の幸せを捨てざるを得ない
哀れな妹。
そして将来の一族の繁栄を担う幼馴染。

疾風はそっと目を閉じて楽器を奏でた。

呪われし一族なのかも知れない。
そう、心に思ったりもした。

宴は明け方まで続いた。

* * * * * *

「おはよう」

眠る疾風の下に丈が現れた。
優しい声でそっと彼を呼んでいる。

「どうした?」
「空、見て」
「そら…?」

虹だった。
山々を繋ぐように虹が掛かっている。

「飛べる?」
「今か? あぁ…」
「約束だよ。一緒に、空を翔けよう」
「そうだな。虹を捕まえるか」

疾風はゆっくりと起き上がると
大きな漆黒の翼が背中に現われた。

「本気だな。俺も負けないから」

丈も同じ様に赤い翼を羽ばたかせる。
二人はほぼ同時に大地を蹴り、
朝日が輝く空へと飛び込んだ。

嬉しそうに空を翔ける二人の姿を
美雨は寂しそうに見つめていた。

そしてもう一人、
恵一も意味有り気な表情で見つめていた。
Home Index ←Back Next→