戦略結婚

過去編・6

何も知らないまま時間が過ぎていた。
丈は子供達と楽しく話をしている。
それを横目で見つめながら疾風は満足げだった。

「加わらないの?」
「漣か……」
「子供達、やっぱり丈に懐いてるよね」
「あいつの優しさが解るんだ」
「へぇ~」
「俺とは正反対だが」
「疾風は子供に懐かれないもんね」
「まぁ…な」
「まだ轟の方が人気ある」

「俺がどうした?」

力仕事を終えた轟が近付いて来る。

「終わったぜ、蔵の修理」
「ありがとう。お疲れ様」
「ご苦労さん」
「お、丈は先生役か?」
「だね」

3人は黙ってその様子を伺っている。

すると。

「男同士で何やってるの?」

美雨である。
3人の顔を覗き込む様に近付いて来た。

「丈の様子をな」
「丈?」

美雨も視線を丈に向けた。

幸せそうな顔で談笑する丈。
その横顔は少しも変わらない。
子供の時からずっと。

「変わらないわね、丈は」
「そうだな」
「優しくて、明るくて…」
「…美雨?」
「そして自由で…」
「……」
「羨ましいわ。
 私も空を飛びたかった…」

亜種人類の女には
翼が生えたりする事は無い。
丈が空を飛ぶ姿を
いつも憧れながら見守るだけだ。

「美雨、待ってろ」

疾風は何を思ったのか、
丈の所へと歩いて行った。

「何だろ、疾風?」
「さぁ…」
「兄さん…」

やがて何事か話すと
丈は此方を向いてニッコリ微笑んだ。

「美雨!」

丈が呼んでいる。

呼ばれる声に引かれる様に
近付いて行く。

「飛ぼうよ」
「え? でも…」
「俺が支えてるから」

そう言うと、
丈はそっと美雨を抱き締め
そのまま空へ向かった。
大きな翼が風を受け、
あっという間に二人は空と一体になった。

「妹思いなんだから」
「疾風の奴…」

漣と轟は顔を見合わせて笑った。
疾風も満足そうにそれを見つめている。

子供達の声に答えながら
二人は空中遊泳を楽しんだ。

* * * * * *

その日の晩だった。
突然父から結婚の話を持ち出されたのは。

「結婚って…。俺はまだ…」
「便宜上だ」
「それが納得出来ない。
 何の為の結婚なんだ?
 相手は誰?
 それ位は答えてくれるんだろう?」
「相手は…美雨だ」
「美雨? だって彼女は…」
「だからだ」

「巫女に結婚が認められないのは
 親父だって知ってるだろう?!」
「例外も認められている。
 私が欲しいのは疾風だからな」
「?」
「疾風を後継者とする。
 長老達に認めさせるには
 私の息子になるしかない」
「それじゃ…」
「そうだ」

「俺達は道具じゃない!!」
「お前の意思は必要ない」
「親父っ!!」
「美雨は巫女だ。
 当然、夫婦の営みはあると思うな」
「俺の言葉を聞けよ、親父!」

丈の声を無視するかの様に
恵一はその場を後にした。
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