五鈷杵

異世界編・2-1

「丈!」

部屋を出ると真っ先に声を掛けられた。
漣だ。

「あ、漣さん」
「どう、体の状態は?」
「大丈夫。
 あの頭痛も消えてるし、快調だよ」
「そ、そうか…」

頭痛が消えたのは理由が解らなかったが
漣は話を続けた。

「轟から話は行ったと思うけど…」
「うん。俺も、それで…」
「じゃあ来てもらえる?」
「解った」

2人は肩を並べ、研究室に向かった。
その後姿を静かに疾風は見つめている。

丈は何かが変わった。
本能的にそれを察知していた。

「…丈」

彼の変化がどのような物なのか迄は
把握出来なかったが。

* * * * * *

スキャニングの結果も良好だった。
心配されていた脳波も異常無い。
そして驚いたのは
彼の脳の活性率だった。

「100%に達してる…」

40%満たなかったものが
短時間で100%にまで引き上がっていたのだ。

「…これは、成長なのか?
 それとも、パラサイダーが?」

漣は一人考えを張り巡らせたが
纏まらないばかりで解決の糸口は無い。

「…自身に不利な事はしない筈だ。
 やっぱり丈の成長だな」
「何?」
「あぁ、独り言」

漣はニッコリ微笑むと丈に何かを持たせた。

「これ…」
「君の五鈷杵だよ。やっと完成した」
「俺の…武器…?」
「そうだ。僕の開発した金属と
 君の細胞を融合させて作った
 君だけの武器だ」

「俺の細胞?」
「髪の毛、1本貰ったんだ。
 DNAレベルで君と同じ物を有している」
「五鈷杵が俺自身…って事?」
「そうだね。僕達の五鈷杵は
 皆そうやって造られている」
「そうなんだ…」

手にした五鈷杵は金属製の筈なのに
羽根の様に軽かった。

「どうやって使うの?」
「念じるだけさ」
「念じる?」
「必要になった時、五鈷杵を呼べば良い。
 君に一番相応しい形になるから」
「へぇ…」

感心する丈の胸が突然
五鈷杵に反応して輝き出した。

「?!」

その位置に吸い込まれていく五鈷杵。
丈は何事が起こったのか判断出来ずにいた。

「大丈夫。『鞘に納まった』だけ」
「鞘? 俺の体が?」
「さっき言ったろ?
 『五鈷杵は君自身』だって。
 普段は君と一体なんだ」
「じゃあ、皆…」
「そう云う事。
 体内に自分の五鈷杵を秘めてる」
「…携帯しなくても良いのか。
 便利だね、これ」

胸をそっと撫でながら
丈はまだぎこちなく笑っている。

「不思議な感じがする…」
「この知識も亜種人類の物なんだ。
 僕はそれを復元させただけ」
「凄いんだね、亜種人類って」
「先祖は科学に秀でてたみたいだね」

漣はウットリする目で
機械を見つめている。

「僕、その血を受け継げて良かったよ」
「そうだね」
「丈、君も機械には強いんだろ?」
「強いって言うか…勉強はしてたよ」
「じゃあ研究手伝ってよ。頼むよ」
「俺で良ければ」
「やったぁ~!!」

漣は思わず丈に飛びついた。

「うわっ!」
「やった~! やったぁ~~~!!」

今迄 孤独に研究を繰り返していた科学者が
初めて相棒を手に入れた喜びだった。
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