夜空飛行

異世界編・2-2

「丈の奴、変わったよな」

轟の一言に
疾風は首を傾げた。

「何かこう、吹っ切れたって言うか。
 …強くなった」
「優しい所は変わらないが」
「だから良いんじゃないか。
 お前は其処に惚れてるんだろ?」
「…轟」
「睨むなよ。俺はな、疾風…嬉しいんだよ」
「?」

「漸く丈が『家族になった』って感じで嬉しいんだ」
「家族…」
「俺達は家族みたいなもんだ。そうだろ?」
「…だな」

疾風はフッと微笑み、
煙草を取り出して咥えた。

「要るか、轟?」
「貰おう」

二人は静かに煙草を燻らせた。
束の間の静かな時間を味わう様に。

* * * * * *

「外に出ないか?」

疾風にそう誘われ、丈は一瞬躊躇った。

「安心しろ。結界の外には出ない」
「なら、大丈夫だね」
「お前に教えたい場所がある」
「何処?」
「ついて来いよ」
「うん…」

疾風の後について丈はそのまま外へと出た。
雨はいつの間にか止んでいた。
淡い月が顔を出す。

「月光浴には良い天気だな」
「何処で?」
「アジトの『上』さ」
「上? どうやって…」

「もう『飛べる』んだろ?」
「飛ぶ?」
「こうやって…翼を出す」

疾風はそっと瞳を閉じた。
すると彼の背中から淡い光と共に
漆黒の大きな翼が姿を現す。
蝙蝠の翼に似ていた。

「…うわ……」

初めて見たからだろう。
丈は大きな目を更に大きくさせ、
無邪気に喜んでいる。

「こらこら。喜んでないでお前も出せよ」
「出せって、翼を?どうやって?」
「念じるだけさ。イメージするんだ。
 翼の生えた自分の姿を、な」
「念じる…。イメージ…」

ヒントを与えれば実行出来るタイプだ。
丈は難無く翼を蘇らせる事が出来た。
まるで孵化するかの様に
その姿は妖艶だった。

「飛べるな。羽根を羽ばたかせ、風を受けろ」
「あ、待ってっ!!」

疾風は態と先に飛ぶ。
夢中でそれを追いかける丈。

体は覚えていた。『飛ぶ』感覚。
何年ぶりだろう。
空を翔る、この快感。

夜空で二人は月に照らされ、
空中遊泳を楽しんでいた。

「何年ぶりかな。こうして二人で飛ぶのは」
「…ずっと、夢見てた。
 疾風と一緒に飛ぶのを」
「夢?」
「あぁ。夢を見てた。昔の夢。
 かなり、しっかり思い出せた」
「…そうか」

「美雨、この時代に居るのか?」
「あぁ。でも…」
「でも?」

「生まれて直ぐに行方不明になった」
「…行方不明」

「必ず探し出すさ。必ずな…」
「俺も手伝う。約束したんだ、美雨と」
「丈?」

「必ずもう一度出会うんだ。
 そう、約束した」

力強い言葉だった。
その言葉に疾風はそっと微笑んだ。
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