目覚めた『焔』

異世界編・2-10

「悔しいか、スザク。
 だが安心しろ。お前の命は取らない。
 俺が…永遠に『飼って』やろう…」

殆ど意識の無い丈の頬を
スペードがそっと撫でる。

「お前は俺の物だ…」

『俺は…』

薄らぐ意識の中、
丈はそれでも叫んでいた。

『違う…。
 俺は…亜種人類として、疾風達と共に…』

力を失った筈の左手が熱い。

『負けたくない…』

強い思いはまだ生きている。

『負けたくないっ!!』

額の第三の目が突如開いた。
それと同時に
強烈な炎の柱が
丈の左手から放たれる。

「?!」

業火。
それに相応しい炎だった。
激しいまでに荒れ狂う炎の波が
スペードを襲う。
それ自体が意思を持つかの様に。

「くっ! 何だ、これは?」
「退け、スペード!」
「クラブ?」

「これは『呪』だ。
 そして我々は炎に対して免疫が無い。
 焼き殺されるぞ」
「くっ!!」

撤退するしかない。
炎は更に勢いを増し、
2人を飲みかからんとする。

「俺は諦めんぞ、スザク!
 何時か貴様を我が手にっ!!」

スペードは血の叫びを残し、
クラブと共に姿を消した。

後に残された丈は
炎の中で昏睡状態となっていた。

* * * * * *

「勾玉が…?」

異変に気付いたのは疾風だった。
そして漣、轟も自分の勾玉を見つめる。

激しく輝く勾玉。

「共鳴している…」
「これは…まさか……」
「…丈?」

疾風は此処で初めて丈の不在を知った。

この哀しげな共鳴は何だ。
何かを呼ぶ様な共鳴は。

「疾風!」

漣の声を遮る様に
疾風はアジトを飛び出した。

「目覚めたのか…。
 最後の…勾玉が……」
「団長…」

「炎の勾玉。…丈だな」
「恐らく…。
 でもこの哀しみは一体……?」
「哀しみ?」

「心が締め付けられる様な、
 そんな感じがするんです。
 轟や疾風と会った時には
 感じなかった共鳴です」
「俺もです、団長。
 何故か…哀しい……」
「……」

恵一は静かに頷いた。

「憂いでいるのだろう。
 あの子も懸命に…」

その言葉は正に『父親』であった。

* * * * * *

「丈!!」

雨に打たれ、横たわる丈は
まるで息をしていないかの様だった。

残酷な迄に痛めつけられた体。
折れ曲がり、切り刻まれた翼。

「これは…四天王か?」

そっと抱き上げると
体が燃える様に熱い。

「しっかりしろ、丈!」

丈の意識は無い。
疾風は彼を抱き上げると
アジトへと走り込んだ。
彼を助ける為に。
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