埋められない差

異世界編・2-9

大人と赤子の差だった。
まるで歯が立たない。

「こんな…」

丈の心に絶望感が過ぎる。

決して丈は弱い訳ではない。
寧ろ、一般人よりも遥かに強いだろう。
だからこそ解る。
スペードの強さが。
絶対的な差が。

「…だけど、俺は……」

退く訳には行かない。
自分の後ろにはアジトがある。
守るべき仲間達が居る。

自分の力で守りたい。
今度こそ。

「はっ!!」

丈は気合を剣に貯め、
思い切り打ち込んだ。

スペードの体が少しぐらつく。

予想していなかった事態に
スペードの表情から余裕が消えた。

「…侮っていたか」

丈を見る目が変わっている。

標的を見る目。
戦う相手を見る目ではない。

『…地上戦は不利だな』

丈もまた、何とか活路を見出そうとしていた。

『急降下だ。
 頭上から剣を振り下ろせば
 俺の力も重力が合わさって…』

丈はそう閃くと
背中の翼を羽ばたかせた。

* * * * * *

雨がぱらつく大空めがけ、
丈はグングンと上昇していく。

「この高さまで来れば…」
「どうするって?」
「?!」
信じられない事だった。

スペードが目の前に居る。
此処は空中である。
何故。

その答えはスペード自身が語った。

「空を飛べるのが自分だけだとでも
 思っていたのか。
 俺は蟷螂の性質を体に取り入れている。
 空を飛ぶなど朝飯前だ」
「そんな…」

逆転する術が絶たれた。
その瞬間だった。

「うわっ!」

顔面を手で押さえつけられ、
近くの廃ビルに叩き付けられる。

「ぐわぁーーーーーっ!!」

コンクリートを砕きながら
丈の体がそのまま地面へと
叩きつけられていった。

赤い羽根は見るも無残に
千切れかけている。

「流石は亜種人類。
 この程度ではくたばらないか。
 それでこそ良い玩具になる…」

スペードは満足そうに
丈の鳩尾を蹴り、羽根を踏みつけた。
呻き声が心地良かった。

激痛に丈は気を失いかけたが
更なる責め苦が
意識を現実に引き戻す。

「これが『戦い』だ。
 弱い者は死ぬしかない。
 強い者に絶対服従するしかない。
 これが現実だ」

スペードの言葉が心に突き刺さる。

「お前の負けだ、スザク」

力無く握る五鈷杵を蹴り飛ばし、
スペードは右手の鎌を振るった。
そう、丈の左肩に。

絶叫が木霊する。

苦しみが、痛みが
発狂させるかの様だった。
血が止まらない。
地面を赤く染め上げていく。

『此処迄…なのか……?』

丈は呆然とした表情で
スペードを見上げるしかなかった。
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