恵一が漣に問う。
「…此方に一部隊移動して来てます。
四天王の反応は有りませんね」
「様子見か?」
「多分…」
「そろそろだな」
「?」
恵一はそのままマイクに向かう。
「疾風、轟、丈。
パラサイダーを迎撃する。
地点はN-1・2地区」
『了解』
代表して疾風の声が聞こえて来た。
「丈の服は?」
「テクノライト素材の物に着替えてもらってます。
以前着ていたあの白い衣装、
もう少し調べたいんですが」
「パラサイダーの戦闘服、だったな」
「えぇ。あれもテクノライト素材なのかどうか…」
「解った。漣は解析を頼む」
恵一はそう言うと素早くレーザーライフルを取り出した。
これ一丁で此処まで来た男。
パラサイダーが恐れる
唯、一人の人間。
「行くぞ」
作戦室に揃った3人を引き連れ、
恵一はN-1地点を目指した。
心は不思議と穏やかだった。
もっと恐怖に囚われるかと思っていたが。
丈は普段と変わらない
澄んだ目で前方を見つめる。
「あれ…か」
「そうだ」
答えたのは父、恵一だった。
「正面は私と丈で叩く。
疾風と轟は散開して挟み込め。
四天王は来ていない」
「了解」
「解りました」
「…はい」
四天王。
丈はスペードの顔を思い出していた。
執着心の深い男。
いずれ対決しなければならない、相手。
「四天王…」
丈の呟きを恵一は聞かない振りで済ませた。
「来るぞ」
恵一の声に丈は微かな頷きを示した。
『鞘は君自身の体』
漣の言葉が蘇る。
丈は念じた。
「…俺の武器。
俺の…五鈷杵…」
彼の胸が紅く輝き始める。
そしてその光の輪からゆっくりと
五鈷杵が姿を現し、
彼の右腕に納まった。
剣先が焔を纏い、
眩しく輝いている。
「やはり剣か…」
恵一は感慨深く呟いた。
五鈷杵は持ち主に合わせて変化する。
丈にとって一番合っているのは
細身の片手剣だったのだ。
「…軽い」
右手にフィットした五鈷杵はとても軽く
丈の腕に何の負担もかけない。
「…俺、戦う。逃げないよ…」
真っ直ぐに前を見つめ、
丈は剣を構えた。
左右では疾風と轟が五鈷杵を取り出し、
既に乱戦が開始されていた。
初陣の丈の為に
少しでも手数を減らそうと云う
先輩戦士の優しさだった。
「行くぞ、丈!」
「はいっ!!」
二人はパラサイダーの集団へ突入を開始した。
何も恐れない。
それが今の丈だった。
大地を蹴り、真っ直ぐに駆け出し
滑らかな動きでパラサイダーを斬って行った。