パトロールの最中
空を見上げ、丈が呟く。
何処かウズウズしている。
「丈」
「何?」
「上空の探索を頼む」
「それって…
『飛んで良い』って事っ?!」
「あぁ」
「疾風!」
丈は嬉しそうに疾風にキスを送り
真紅の翼を呼び出した。
「じゃあ見てくる!」
「行って来い」
「うん!」
上空に向け、猛スピードで
丈は駆け出して行った。
「本当に…昔から
『飛ぶ』事の好きな奴だ…」
嬉しそうにその姿を見つめる疾風の
両眼はとても優しげだった。
久しぶりの風を全身で感じる。
この快感は言葉に表現出来ない。
自在に空を舞い、
暫くして漸く丈は自分の任務を思い出す。
「いけね! パトロール中だった!!」
「もう忘れてるのか。困った奴だ…」
「疾風…」
「空は良い。何の束縛も受けない」
優雅に羽ばたく漆黒の翼。
疾風にはピッタリの翼だ。
「例え薄曇の空でも
…俺はこの風景を愛している」
「…そうなんだ」
「俺の故郷、だからな。
この時代、この場所は…」
「故郷…」
丈は柔らかな微笑を浮かべる。
「俺にとっても故郷だよ。
この場所は…」
「丈…」
「お~い!!」
下から誰かが二人を呼ぶ。
見事な白い虎に跨った漣だった。
「良いよなぁ~。
そっちは空を飛べてさ!!」
「オ前ハ俺ノ上デ
楽シテルジャネェカ!!」
「と、轟……」
「振リ落トスゾ!」
「ご、御免!!」
明るい笑い声が木霊する。
丈と疾風も地上に降り、
4人は一頻り笑った。
明るい笑い声が聞こえてくる。
誰も居ない筈のこの森にも。
「丈、笑ってる…」
タバサは丈の心を通じて
彼等の事を知っている。
「良いなぁ…仲間」
丈の明るい笑い声が
彼の心の輝きが
伝わってくる。
「何だか私も嬉しいな…」
タバサはそっと立ち上がり、
空を見上げた。
「貴方達が何時までも笑っていられる様に。
その笑みを絶やさない様に。
私、この歌を捧げるわ…」
タバサは歌い始めた。
伸びやかな声で。
戦士達の心を癒す為に。
「タバサ?」
「えっ?」
「タバサの歌だ…」
丈は上空を見上げた。
そして彼女の歌に合わせ、自身も口ずさむ。
そのメロディを。
「懐かしい感じがする…」
「知ってる感じがするな、それ…」
「この歌は…『再生』」
「知ってるのか、疾風?」
「あぁ…。覚えてないか?」
「美雨の…祈りの歌?」
「そうだ」
「じゃあ何故その…
タバサって子が?」
「さぁな…」
『再生』を口ずさむ丈の姿を
疾風は煙草を咥えながら、
眩しそうに見つめていた。