不意打ち

異世界編・2-8

「ん?」

その変化は丈だけが感じ取っていた。
何かが近付いて来る。

「…何だろう? この感覚」

皮膚を突き刺す様な
ビリビリとした感覚が全身を走る。

「…見てくるか」

丈はそう呟くと
一人、アジトの外へと出て行った。

* * * * * *

生温い風が血の匂いを運んでくる。
その違和感に丈は眉を寄せた。

「パラサイダー?
 けど…此処は結果内の筈」
「四天王には無駄な結界だ」
「?!」

背後からの声。
思わず身構えると
其処には長身の男が立っていた。
不気味な笑みを浮かべながら。

「貴様は…」
「我が名はスペード。
 会いたかったぞ、スザク。我が餌よ」
「俺の名は丈。門田 丈だ!」

丈は真っ直ぐにスペードを睨み付けると
体内から五鈷杵を呼び出した。
丈の意思に呼応し、
五鈷杵の形が剣に変わる。

スペードも笑みを浮かべ、
右腕を鎌状に変えていた。

「切り刻んでやろう…」

スペードの声に、
言い知れない恐怖心が募る。
これが四天王の強さか。

丈は背中に冷たいものを感じながらも
剣を握り締めた。

* * * * * *

睨み合う時間が
とてつもなく長く感じる。
丈は気を剣先に集中させた。

右足に重心を踏み込み
丈はスペードに切り込んだ。

下段から中段へ
流れるような剣捌き。
それを簡単にスペードは受け止めた。
微動だにしない。

全体重を乗せた攻撃が
まるで応えていない。

確かに丈とスペードの身長差は10cm以上あり、
対格差は多少生じるだろう。
しかし…何かが根本的に違う。

スペードは軽く右腕を薙ぎ払った。
それだけで丈の体が吹き飛ばされる。

状態を整えた瞬間、第二打が来た。
衝撃波である。

「!!」

五鈷杵で何とか食い止めるが
顔や体には無数の傷が刻まれていく。

「…そんな」

信じられなかった。
この力の差は何だ。
決定的な差は、
一体何処から生じているのか。

「持久力、破壊力、スピード…。
 それなりに楽しめるレベルだな」

スペードはそう言うと
ニタリと笑みを浮かべた。

* * * * * *

「筋力差…か?」

細身に見えるスペードの着衣に隠された
筋肉の組織が見える。
人間のそれとは明らかに違う発達。
瞬発的に発揮されるあの破壊力の元は…。

「筋組織、骨格…。
 人間とは全く違うって事か」
「勿論。脆弱なカプセル食の人類と
 一緒にしないで貰おうか」
「人食いに言われたくは無いな」

丈は負けていなかった。
瞳にはそれでも光が宿る。
澄んだ眼差しが
真っ直ぐにスペードを捉える。

「哀れな…」

スペードの嘲笑を
丈は吹き払う様に剣を構えた。
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