その変化は丈だけが感じ取っていた。
何かが近付いて来る。
「…何だろう? この感覚」
皮膚を突き刺す様な
ビリビリとした感覚が全身を走る。
「…見てくるか」
丈はそう呟くと
一人、アジトの外へと出て行った。
生温い風が血の匂いを運んでくる。
その違和感に丈は眉を寄せた。
「パラサイダー?
けど…此処は結果内の筈」
「四天王には無駄な結界だ」
「?!」
背後からの声。
思わず身構えると
其処には長身の男が立っていた。
不気味な笑みを浮かべながら。
「貴様は…」
「我が名はスペード。
会いたかったぞ、スザク。我が餌よ」
「俺の名は丈。門田 丈だ!」
丈は真っ直ぐにスペードを睨み付けると
体内から五鈷杵を呼び出した。
丈の意思に呼応し、
五鈷杵の形が剣に変わる。
スペードも笑みを浮かべ、
右腕を鎌状に変えていた。
「切り刻んでやろう…」
スペードの声に、
言い知れない恐怖心が募る。
これが四天王の強さか。
丈は背中に冷たいものを感じながらも
剣を握り締めた。
睨み合う時間が
とてつもなく長く感じる。
丈は気を剣先に集中させた。
右足に重心を踏み込み
丈はスペードに切り込んだ。
下段から中段へ
流れるような剣捌き。
それを簡単にスペードは受け止めた。
微動だにしない。
全体重を乗せた攻撃が
まるで応えていない。
確かに丈とスペードの身長差は10cm以上あり、
対格差は多少生じるだろう。
しかし…何かが根本的に違う。
スペードは軽く右腕を薙ぎ払った。
それだけで丈の体が吹き飛ばされる。
状態を整えた瞬間、第二打が来た。
衝撃波である。
「!!」
五鈷杵で何とか食い止めるが
顔や体には無数の傷が刻まれていく。
「…そんな」
信じられなかった。
この力の差は何だ。
決定的な差は、
一体何処から生じているのか。
「持久力、破壊力、スピード…。
それなりに楽しめるレベルだな」
スペードはそう言うと
ニタリと笑みを浮かべた。
「筋力差…か?」
細身に見えるスペードの着衣に隠された
筋肉の組織が見える。
人間のそれとは明らかに違う発達。
瞬発的に発揮されるあの破壊力の元は…。
「筋組織、骨格…。
人間とは全く違うって事か」
「勿論。脆弱なカプセル食の人類と
一緒にしないで貰おうか」
「人食いに言われたくは無いな」
丈は負けていなかった。
瞳にはそれでも光が宿る。
澄んだ眼差しが
真っ直ぐにスペードを捉える。
「哀れな…」
スペードの嘲笑を
丈は吹き払う様に剣を構えた。