炎を喰らう鳥

タバサ編・10

「タバサ…。美雨……」

丈は森に閉じ込められた
嘗ての婚約者の名をそっと呼ぶ。

「君は必ず守る。
 こうして…
 俺達は又巡り逢えたんだから」

左手の勾玉が
やがて光速で回り始める。

一条の光となり、彼の全身を包む。

「…えっ?」

驚いたのはその場に居た全員だ。

丈の勾玉は確かに
森を包む業火を『飲み込んでいた』のだ。

「火を…喰らっているっ?!」

信じられないとばかりに
ダイヤが絶叫する。

「火に耐性が有るとは言え、
 それを喰らうなんて…」
「お前等と一緒にするな。
 アイツは『火』と一心同体なんだよっ!」

轟の慟哭にダイヤの表情が更に強張る。

「…貴様等の方が
 余程『バケモノ』だよ…。
 亜種人類が……」
「人食いに『バケモノ』扱いされる
 筋合いはねぇなッ!!」
「轟の言う通りだ」

疾風はそう頷くと丈を庇う様に立ち塞がり、
ライフルを放つ。
牽制とは云え、
的確な射撃を相手に
スペードもダイヤも打つ手が無い。

「…クラブ?」

援護の無い事にダイヤが驚くものの
クラブは至って冷静そのものだった。

「…火の鳥らしい業だな。
 炎を喰らい、更に力を付けるか…」
「クラブ…?」
「見せてもらおう。その才能を」
「……」

疾風は黙ってクラブを見つめた。
殺意も、敵意も感じない。

『この感じは…
 団長の『それ』と似ている。
 コイツ、一体……?』

様々な思惑が入り混じる中、
視線は丈に集中していった。

* * * * * *

「…じょ、う?」

タバサ、いや…美雨は
森の奥に閉じ込められていた。

煙によって呼吸を抑えられ
意識を失う寸前。
確かに聞いた、その声。

『君は必ず守る。
 こうして…
 俺達は又巡り逢えたんだから』

「やっと…逢える……。
 時代を超えて、
 やっと貴方に…逢えるのね…」

彼女は自分の正体も、過去も
鮮明に記憶していた。

待っていたのだ。

あの時の約束を果たす為に
時空を超えてやって来た
自分だけの救世主を。

「私…負けない。
 貴方に漸く逢えるのに…
 こんな所で…終わりたくない」

力を振り絞り美雨は立ち上がった。

喉は枯れ、歌は歌えない。
だが…彼女の心は
あの頃の青空の様に晴れ渡っていた。

「私達の太陽…。
 貴方が居てくれたから
 私達は…『光』を信じて生きてこれた…」

煙は静かに美雨の元から拡散していく。

解っている。
彼の『力』だと。

「丈…。貴方を…信じてる」

美雨は力強く頷き、
動物達を安全な場所へ誘導していった。

此処は間もなく戦場になる。
それが、解っているからこそ。
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