真 相

タバサ編・9

「親父…どうして?」

丈の言葉に、恵一は応じた。

「或る集落がパラサイダーに襲われた。
 疾風、お前が生まれ育った『村』だ」
「…覚えています。
 当然、村が襲われた事…」

「私は遠征で村を訪れていた。
 その時…村長である婦人に託されたのだ。
 小さな女の子の人生と
 『新しい』名前を。
 『タバ・サ』はこの世界の言葉で
 『自由』を意味する。
 パラサイダーは彼女を狙っている。
 そう感じた私は『静かなる森』に彼女を保護した」

「そのお婆さんって…
 亜種人類なんですか?」

漣の問いに恵一は首を横に振った。

「疾風と美雨の両親も、村人も、
 勿論…村長も『人間』だ」
「…俺は『異端児』だからな」

寂しげな疾風の声。

「パラサイダーが全てを掴んだとしたら…
 一刻の猶予も無いです、団長!」

轟の声に全員が頷く。

「どんな事があろうとも
 あの子をパラサイダー等には渡せん」

恵一の目は澄んでいる。
決意に満ちた瞳。

「疾風、轟、丈。
 『勾玉』の力を使い、
 先に向かってくれ」
「座標はもう出してる。
 このポイントに飛んで!!」

漣はスクリーンに地図を出す。

「団長…」
「行ってくれ、疾風。
 この償いは、必ず……」
「……」

疾風は黙って頷いた。

美雨を守る為、
ただ…それだけの為。

しかし、その為にこそ
彼は今迄…戦ってきたのだ。

感謝の念が芽生えても
恨む気など更々無い。

「先行して、奴等を食い止めます」

疾風の声に恵一はしっかりと頷いた。

* * * * * *

「炎の海か」

スペードは
燃え盛る炎の壁を見つめている。

「入り口だけでこの程度じゃ
 全部燃やすとなると時間が掛かるね」

ダイヤの声に軽く頷く。

「…亜種が来る」

クラブはそう呟くとサングラスを直した。
臨戦態勢に入る前の合図だ。

「…もう?
 流石、と云うべきか……」
「来るか、スザク……」

不意にスペードが笑みを浮かべる。

「本当に…
 『お気に召した』みたいだね。
 スザクの事」
「ふっ…」

ダイヤの冷やかしにも
スペードは不気味な笑みを浮かべたままだ。

「生存反応は?」
「微かに。
 でも、やっぱり森が邪魔してる」
「そうか…」

クラブはそう言うと
ライフル銃を取り出した。

「来るぞ」

空間の歪を感じる。
『呪』の気配を感じ取っているのだ。

クラブは出迎えるかの様に
ライフル銃を連射した。

* * * * * *

クラブの銃撃は
それを予知していた疾風の『呪』によって
全て封じられていた。

「森が…っ!!」

丈は『静かなる森』の悲鳴を聞いた。

左手に秘められた『炎の勾玉』が
激しく反応している。

「疾風、轟さん!
 パラサイダーを抑えてくれっ!!」
「丈…?」

轟は彼の真意が読めない様だったが
無言で四天王と相対する疾風に合わせ、
戦闘態勢に入る。

「丈…」

疾風がそっと声を掛ける。

「森と…妹を、
 頼む、守ってくれ……」
「必ず、守るよ」

丈はそう言い切り、
第三の瞳を開眼させた。
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