時空を超えた再会

タバサ編・11

業火を飲み込む事は
幾ら『火』に耐性が有るとは云え、
無謀な事なのかも知れない。

だが、彼は諦めたくはなかった。
自分が此処で諦めてしまったら
疾風と美雨は二度と会えなくなる。
それだけは、決してさせない。

信念が彼の命綱だった。
勾玉を制御しながら
森を襲う炎を沈静化させていく。

仲間の援護射撃が有り難かった。

「…必ず」

丈の視線は真っ直ぐに
静かなる森を見つめていた。

* * * * * *

「…雨?」

それは突然の豪雨だった。

前が見えなくなる位の激しい降り。

「炎が…消える…」

ダイヤの呟きに
疾風は漸く炎を脅威の終了を悟った。

「丈!」

彼の声に、丈は静かに頷く。
まるで紅い風の様に
そのまま森に飛び込んでいく。

「あっ!」
「放っておけ、ダイヤ。
 森の力は消えていない」
「しかし…クラブ」
「待っていれば
 スザクが美雨を連れて来る」

「お前等の好きにはさせない」

疾風の視線は真っ直ぐクラブに注がれる。

「絶対にだ…」

* * * * * *

燻した様な空気が充満している。
丈は顔を顰めながら
森の奥へと進んでいった。

クラブが言う通り
確かに彼は『認められて』いるらしい。
道が静かに開かれていく。

第3の瞳は真っ直ぐ
『彼女』の存在を察知している。

「タバサッ!!」

丈はそれでも彼女を『タバサ』と呼んでいる。
それが最初に知った名前だからこそ。

「タバサ! 無事か?!」

鬱蒼と茂る樹木がある限り
翼を使う事は出来ない。
丈は自分の足で少しずつ
目的地を目指していた。

「必ず…助けると誓った…。
 俺は…必ず君を…」

煙が視界を遮る。
息が苦しい。
こんな中で彼女は一人
自分を待っているに違いない。

急がなければ。
そんな思いが彼に力を与える。

『丈…?』

微かに聞こえてくる、
タバサ…美雨からの声。

「タバサ…無事か?」
『来てくれたのね、丈…。
 逢いたかった……』
「もう直ぐ、逢えるよ」
『うん…』

直ぐ傍に感じる、彼女の気配。
丈は最後の壁となる草むらを抜けた。

其処には小さな泉。
そして…。

「タバサ……?」

実際に逢うのは初めてだ。
だが、間違いない。
彼女は『過去の記憶』に残る
美雨その人だったのだから。

「丈……」
「やっと…逢えたな」

この場所は泉の御蔭か
煙の被害が少ない。
丈は彼女の無事を確認すると
そっとその体を抱き締めた。

「迎えに来たよ。
 遅くなって…御免」
「約束…守ってくれて
 有難う……」

美雨はそう言うと
涙を浮かべながらも微笑んでいた。
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