『美雨』争奪

タバサ編・12

「皆が待ってる」
丈の言葉に対し、美雨は静かに頷いた。

「漸く会える。
 私の大切な人達と」
「随分待たせたんだな…」
「待った時間なんて関係ないわ。
 私、皆に逢えた事に感謝してる」
「タバサ…」

「行きましょう、丈」
「あぁ」
丈はそう言うと
背中から翼を召喚する。

「空から行こう」
「うん」
美雨は彼の手を取り
嬉しそうに微笑んだ。

* * * * * *

恵一が到着したのは
丁度丈と美雨が再会を果たした頃だった。

「…どう云う事だ?」
四天王が揃っている。
恵一の違和感は其処に有った。

「森の妨害を読んで
 待機してるって訳ですよ」
轟の説明に恵一の表情が曇る。

「…クラブの策か」
「はい…」
「…拙いな」
思わず恵一は漏らした。

クラブが前線に赴いている理由を
今更ながらに痛感する。

『丈は必ず戻ってくるだろう。
 それを我々は守れるのか?』

策を立てたクラブもまた
更に知恵を張り巡らせていた。

『スザクは此処に戻ってくるだろう。
 しかし、その状態で
 美雨を此方に連れて来れるだろうか』

被害は少ない方が良い。
亜種人類達の決意の固さは
身を以って実感している。

美雨をただで奪われる訳にはいかないだろう。
その、反撃が恐ろしい。

『多少の痛手は覚悟しなければならないか』

睨み合い、動けない状況で
恵一とクラブの頭脳合戦も
熾烈を極めていた。

* * * * * *

「…!」
疾風は確かに感じた。

間違いない。
この気配は。

「…丈。美雨」
暖かな、穏やかな気配。
2人は漸く再会を果たしたのだ。

「…いよいよ、か」
クラブもそれを感じ取っていた。
スッとライフルに手をやると
乱射を開始する。

「…くっ!」
疾風が直ぐに『呪』を発揮させ
風で防弾壁を呼び出す。

ライフルの嵐から全員を守る事で
疾風の攻撃は事実上封じられた。

森の援護が有るとは言え、
スペードの動きは速く
なかなか動きを止める事は敵わない。

「向こうも本気だ。
 だが…負ける訳には行かない」

恵一の並々ならぬ決意は
疾風と轟にもよく理解出来た。

負ける訳には行かない。
その通りだった。
まもなく丈が此処に到着するだろう。
歌姫、巫女の美雨と共に。

「もう……」
あの2人を悲しませたくは無い。

嘗ての記憶が鮮明に蘇る。
一族の犠牲となった若き存在。
もっと伸びやかに生かせたかった。

「今度こそ…
 本当の幸せを……」

恵一の願いはそれだけだった。
悲しみの運命から
息子を救い出したかったのだ。
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