丈の言葉に対し、美雨は静かに頷いた。
「漸く会える。
私の大切な人達と」
「随分待たせたんだな…」
「待った時間なんて関係ないわ。
私、皆に逢えた事に感謝してる」
「タバサ…」
「行きましょう、丈」
「あぁ」
丈はそう言うと
背中から翼を召喚する。
「空から行こう」
「うん」
美雨は彼の手を取り
嬉しそうに微笑んだ。
恵一が到着したのは
丁度丈と美雨が再会を果たした頃だった。
「…どう云う事だ?」
四天王が揃っている。
恵一の違和感は其処に有った。
「森の妨害を読んで
待機してるって訳ですよ」
轟の説明に恵一の表情が曇る。
「…クラブの策か」
「はい…」
「…拙いな」
思わず恵一は漏らした。
クラブが前線に赴いている理由を
今更ながらに痛感する。
『丈は必ず戻ってくるだろう。
それを我々は守れるのか?』
策を立てたクラブもまた
更に知恵を張り巡らせていた。
『スザクは此処に戻ってくるだろう。
しかし、その状態で
美雨を此方に連れて来れるだろうか』
被害は少ない方が良い。
亜種人類達の決意の固さは
身を以って実感している。
美雨をただで奪われる訳にはいかないだろう。
その、反撃が恐ろしい。
『多少の痛手は覚悟しなければならないか』
睨み合い、動けない状況で
恵一とクラブの頭脳合戦も
熾烈を極めていた。
「…!」
疾風は確かに感じた。
間違いない。
この気配は。
「…丈。美雨」
暖かな、穏やかな気配。
2人は漸く再会を果たしたのだ。
「…いよいよ、か」
クラブもそれを感じ取っていた。
スッとライフルに手をやると
乱射を開始する。
「…くっ!」
疾風が直ぐに『呪』を発揮させ
風で防弾壁を呼び出す。
ライフルの嵐から全員を守る事で
疾風の攻撃は事実上封じられた。
森の援護が有るとは言え、
スペードの動きは速く
なかなか動きを止める事は敵わない。
「向こうも本気だ。
だが…負ける訳には行かない」
恵一の並々ならぬ決意は
疾風と轟にもよく理解出来た。
負ける訳には行かない。
その通りだった。
まもなく丈が此処に到着するだろう。
歌姫、巫女の美雨と共に。
「もう……」
あの2人を悲しませたくは無い。
嘗ての記憶が鮮明に蘇る。
一族の犠牲となった若き存在。
もっと伸びやかに生かせたかった。
「今度こそ…
本当の幸せを……」
恵一の願いはそれだけだった。
悲しみの運命から
息子を救い出したかったのだ。