護るべき存在

タバサ編・13

「来たな」

スペードの言葉に
その場に居た全員の表情が
一斉に強張った。

「…美雨には手傷を負わせるな」

クラブの言葉に
スペードは不服そうな顔を浮かべたが
彼の気迫に押されたのか
言葉を飲み込むに至った。

『四天王は本気だ』

疾風は瞬時にそれを理解した。
あの日の悪夢が蘇る。
この森さえもその犠牲になった。

『これ以上は許さん。
 俺は誓ったんだ。
 今度こそ護ってみせる。
 大切な存在を、必ず』

疾風の決意はレジスタンスメンバーにも届いていた。
轟も、恵一も
その思いは同じなのだ。

そして…。

「タバサ…。
 皆の所に向かうが、
 敵も其処に存在している。
 俺達から離れないで」

丈は彼女を抱き留めたまま空を舞い、
状況を説明していた。

戦場にこれから突入するのだ。

「大丈夫。
 私、自分の身は自分で守れるわ。
 貴方は戦いに専念して」
「タバサ…」
「私も貴方達を護ってみせるから」

どうして忘れていたのだろう。
美雨は決して『弱い』存在ではない。
あの疾風の妹として、
そして亜種人類の巫女として。

「…判った」

丈はそう言うと
静かに目的地を見つめていた。

「突入する」
「えぇ」

美雨は頷くと
全身を丈に預けた。

* * * * * *

『彼等が揃えば、勾玉が使える』

恵一の狙いは其処にあった。

美雨もまた、勾玉の『力』を持つ者。
此処に漣は居ないが
その勾玉が目的地となって
彼等を導くであろう。
安全に此処から脱出するには
それが一番の方法である。

だが、問題もある。

『彼等がそれに気付かなければ良いが』

恵一の懸念。
それは護るべき存在達が
この作戦を否定しないか、と云う事だ。

するとその時。

「…来たな」

クラブの声に全員が上空を見つめる。

丈であった。
迷いの無い表情で
静かにパラサイダー四天王を見つめ、
ゆっくりと着陸した。

「タバサ…」
「うん、判ってる」

美雨はそう言うと
そっとその場から離れる。
丈はそっと頷くと己を武器を召還する。

「パラサイダーには彼女を渡さない」
「…そうか」

答えたのはクラブ。
その答えすらも
既に解っていたかの様であった。

「ならば全力で護るが良い」
「言われなくても!」

丈は剣を構える。

もうスペードが此方に向かって
突進を掛けていた。

「俺は退かない!」

丈は真正面から鎌の攻撃を受け止めていた。

筋力も以前のそれとは違う。
確実に彼は変貌を遂げていた。
恐ろしい位の短期間で。
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