だが、それは『意地』なのか。
胴を切断する筈だった剣は
丁度中心辺りで止まっている。
そして、押す事も引く事も出来ずにいた。
「…莫迦な」
スペードの驚愕をその場の全員が感じていた。
「…親父?」
丈はゆっくりと口を開く。
信じられない現実を目の当たりに、
それでも懸命に立っていた。
「親父!」
「…退けっ!!」
恵一はそれでも叫んだ。
愛する者を守る為に、己の全てを賭けて。
剣を留めているのも、彼の『思い』に他ならない。
「親父っ!!」
丈の体が真っ直ぐ恵一の方へ向かおうとした時。
新たな衝撃が彼の左胸を襲う。
恵一の体から強引に抜き去った剣が
そのまま丈を襲ったのである。
無防備に突進した彼に防ぐ術は無い。
「……丈」
恵一が静かに目を閉じる。
無念の思いが溢れていた。
体から飛び散った血液が
少しずつ光を発していく。
幻想的な瞬間。
「…何?」
クラブが真っ先にその『変化』を察した。
血液が一瞬の内に炎と化し、
丈を、仲間達を包み込んでいく。
「…亜種人類の残した、たいよう……」
恵一の目から涙が溢れる。
無念が希望に、期待へと変わっていく。
「あとは…たの、む……」
恵一の言葉は業火に消され、
仲間達の耳に届く事はなかった。
炎は更に勢いを強めるが
何故か周囲の木々に引火する気配は無い。
あくまでもパラサイダーを牽制するだけで
どちらかと言えば『防御』に徹している。
「…これまで、だな」
クラブの言葉にダイヤが静かに頷いた。
炎の中で、レジスタンス達の姿が淡くなっていく。
時空転移を行っているのだ。
「流石は火の鳥……」
スペードだけは不完全燃焼なのか、
黙って炎を見つめてはいるものの
その拳は高ぶる感情で震えていた。
恵一の亡骸は会議室に運ばれた。
轟と漣は会議室から一歩も動かない。
どれだけこの2人が恵一を心の支えにしてきたか。
それは、疾風が一番良く知っていた。
レジスタンスとしても、個人としても
恵一と云う支柱を奪われた衝撃は大きい。
実の息子、丈なら尚更だろう。
疾風はそう思っていたのだが。
「傷の手当に励むよ。
セルファー、借りるから」
「大丈夫なのか、丈?」
「俺は平気。
疾風は…タバサを支えてやってよ。
彼女の心の傷の方が心配だ」
丈は柔らかな笑みを浮かべると医務室へと消えた。
「…丈」
自分の後ろに気配を感じる。
美雨だった。
「…私の所為で、叔父様が……」
「それは違う、美雨…」
それぞれが受けた心の傷。
これが癒える迄と、悠長に時間は掛けられない。
疾風はどうすれば良いのか、考えあぐねていた。