悲しみの果てに見たもの

タバサ編・15

スペードの剣は恵一を斬り付けていた。

だが、それは『意地』なのか。
胴を切断する筈だった剣は
丁度中心辺りで止まっている。
そして、押す事も引く事も出来ずにいた。

「…莫迦な」

スペードの驚愕をその場の全員が感じていた。

「…親父?」

丈はゆっくりと口を開く。
信じられない現実を目の当たりに、
それでも懸命に立っていた。

「親父!」
「…退けっ!!」

恵一はそれでも叫んだ。

愛する者を守る為に、己の全てを賭けて。
剣を留めているのも、彼の『思い』に他ならない。

「親父っ!!」

丈の体が真っ直ぐ恵一の方へ向かおうとした時。

新たな衝撃が彼の左胸を襲う。
恵一の体から強引に抜き去った剣が
そのまま丈を襲ったのである。

無防備に突進した彼に防ぐ術は無い。

「……丈」

恵一が静かに目を閉じる。
無念の思いが溢れていた。

* * * * * *

体から飛び散った血液が
少しずつ光を発していく。
幻想的な瞬間。

「…何?」
クラブが真っ先にその『変化』を察した。

血液が一瞬の内に炎と化し、
丈を、仲間達を包み込んでいく。

「…亜種人類の残した、たいよう……」

恵一の目から涙が溢れる。
無念が希望に、期待へと変わっていく。

「あとは…たの、む……」

恵一の言葉は業火に消され、
仲間達の耳に届く事はなかった。

炎は更に勢いを強めるが
何故か周囲の木々に引火する気配は無い。
あくまでもパラサイダーを牽制するだけで
どちらかと言えば『防御』に徹している。

「…これまで、だな」

クラブの言葉にダイヤが静かに頷いた。

炎の中で、レジスタンス達の姿が淡くなっていく。
時空転移を行っているのだ。

「流石は火の鳥……」

スペードだけは不完全燃焼なのか、
黙って炎を見つめてはいるものの
その拳は高ぶる感情で震えていた。

* * * * * *

恵一の亡骸は会議室に運ばれた。
轟と漣は会議室から一歩も動かない。
どれだけこの2人が恵一を心の支えにしてきたか。
それは、疾風が一番良く知っていた。

レジスタンスとしても、個人としても
恵一と云う支柱を奪われた衝撃は大きい。
実の息子、丈なら尚更だろう。

疾風はそう思っていたのだが。

「傷の手当に励むよ。
 セルファー、借りるから」
「大丈夫なのか、丈?」
「俺は平気。
 疾風は…タバサを支えてやってよ。
 彼女の心の傷の方が心配だ」

丈は柔らかな笑みを浮かべると医務室へと消えた。

「…丈」

自分の後ろに気配を感じる。
美雨だった。

「…私の所為で、叔父様が……」
「それは違う、美雨…」

それぞれが受けた心の傷。
これが癒える迄と、悠長に時間は掛けられない。

疾風はどうすれば良いのか、考えあぐねていた。
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