揺ぎ無い決意

タバサ編・18

その日の晩。

「いよいよ、だな」

部屋を訪ねて来たのは疾風だった。
柔らかい笑顔を浮かべ、中へと招き入れる。

「漸く…第一歩を踏み出せる」
「そうだな。あの頃からの悲願。
 随分と長い月日が流れた……」

レジスタンスの長として、疾風は少し変わった。
寂しげな瞳は過去を思い起こさせる。

『そうさせない為にも、俺が…動く』

丈の決意は固い。
同じ過ちを繰り返さない為に。
未来の為に。

「丈」
「ん…、何?」
「無事に戻れよ」
「勿論だよ。
 ちゃんと良い報告も兼ねて…」
「仮に話が決裂したとしても、
 お前だけは無事に戻って来い」
「…疾風?」

「人間はお前が考えている程
 理解の有る存在では無い。
 最悪の場合、お前だけは必ず戻って来い」
「……」

「レジスタンス・リーダーとしての『命令』だ」

疾風は『命令』と云う単語に重きを置いた。

生きて帰って来る事。
それこそが重要なのだ、と。

丈も疾風の気持ちは解っている。
苦しい程、彼の思いを感じ取っている。

しかし、同時に彼は己に課した使命の重さも感じていた。
失敗すれば、確実に被害が広がっていく。
それだけは…絶対に防がなくてはならない。
自らの生命に換えても。

『俺は……』

丈を言葉を飲み込み、黙って頷いた。
それしか、返せなかった。

* * * * * *

「長年の夢、悲願。
 それに対する気持ち…か。
 気が遠くなる位、時間が流れたんだよな」

しみじみと語る轟は何時に無く饒舌だった。

「どうしたの、一体?」
「…一寸感傷っぽくなった」
「へぇ……」

漣も珍しく機械を触る事無く
静かに彼の話を聞いている。

胸騒ぎがするから、と研究室から出てきたのも
思えばこれが初めてではないだろうか。

「疾風は…どう思ってるのかな?」
「正直、良くは思ってないだろうさ」
「…やっぱり?」

「人間に迫害された過去を持つのは
 俺達の共通点でも有るからな。
 だからこそ、この役目は丈にしか出来ない。
 それも解っている」

「…疾風は、どうするつもりだろう。
 和解協議が決裂したら……」
「……」

「もしかして、僕達は
 人間とも戦わないと駄目なのかな?」
「…最悪のシナリオだな」
「……うん」

「…丈が、何とかするだろうさ」
「えっ…?」

「そのシナリオだけは丈が阻止すると思うぜ。
 誰が何と言おうが…
 疾風がどれだけ反対しようが」
「轟……」

「丈はこの世界を、時代を、全てを変えてくれる。
 そんな期待を抱かせる存在だ」
「そうだね…」

「俺達に出来る事は…
 丈を信じる事だ」

轟はそう言うと漸く微笑を浮かべた。
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