激突・1

タバサ編・3

「雨か…」

疾風は静かに口を開いた。

「…あの日を思い出す。
 こんな時は、いつも」
「轟?」

「俺には種族を超えて愛し合った恋人が居た。
 彼女は人間だったが俺を恐れる事もなく、
 寧ろ俺を受け入れてくれた。
 白い花の似合う、…優しい女だった」
「……」

「彼女は俺を庇ってパラサイダーに殺された。
 俺の目の前で食われた。
 パラサイダーの少年に、な」
「……」

「俺は自分を憎んだ。力の無い自分を。
 その時、この勾玉に目覚めた」

轟はそっと右手を開いた。

「もっと早く目覚めていれば
 彼女を救えたかも知れない。
 今でも後悔している」
「だから、戦うのか」
「あぁ。俺は個人的な復讐で
 パラサイダーを倒していくだけだ。
 これからもな…」

どうして轟が過去を告白したのか。
何となく疾風は理解出来た。

『覚悟』

その二文字が轟を告白に導いたのだろう。

「轟」
「何だ?」

「俺はまだ死なない。
 妹を見付けていない。丈を守れていない。
 こんな中途半端なまま屍を晒す訳にはいかない」
「疾風…」

「パラサイダーを壊滅させるまで、
 お前の戦いは終わらない。そうだろ?」
「…そうだな。俺とした事が、
 少しビビっちまった様だ」
「らしくないぜ、轟」

轟の表情に笑みが戻る。
恵一はその遣り取りを静かに見守っていた。

* * * * * *

戦いの幕は一気に下ろされた。

ダイヤはまず雑兵を差し向け、
亜種人類の体力の消耗を狙った。
が、その考えは恵一が見抜いていた。

「轟、『呪』だ!」

大群で押し寄せる雑兵に知恵は無い。
轟は精神を集中させ、大地に拳を叩き付ける。

「唸れ、大地よっ!!」

その瞬間、疾風は翼を広げ空中に舞った。
五鈷杵を呼び出し、空から狙い撃ちする。

マシンガンタイプに変化した五鈷杵は
地震に足を取られた敵を
確実に倒していった。
混乱する雑兵に指示は効かない。

「くっ…莫迦なっ!!」

ダイヤは焦り、歯軋りした。

「相手はたった3人だ。何故、何故っ?!」

「…亜種人類だからだ。小細工は通用しない」

クラブは冷静にそう言い放つとライフルを構えた。

「ふん。能無しが幾ら数集めても
 役に立たない事が証明された訳だ」

スペードも鼻で笑っている。

彼等は自分の力を知っている。
自分の実力を信じている。
そして、己が手で敵を討っている。
戦場を知る男達は冷静に現状を見ていた。

「大したもんだよ、門田 恵一…」

クラブはそう言って微笑んだ。
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