疾風は静かに口を開いた。
「…あの日を思い出す。
こんな時は、いつも」
「轟?」
「俺には種族を超えて愛し合った恋人が居た。
彼女は人間だったが俺を恐れる事もなく、
寧ろ俺を受け入れてくれた。
白い花の似合う、…優しい女だった」
「……」
「彼女は俺を庇ってパラサイダーに殺された。
俺の目の前で食われた。
パラサイダーの少年に、な」
「……」
「俺は自分を憎んだ。力の無い自分を。
その時、この勾玉に目覚めた」
轟はそっと右手を開いた。
「もっと早く目覚めていれば
彼女を救えたかも知れない。
今でも後悔している」
「だから、戦うのか」
「あぁ。俺は個人的な復讐で
パラサイダーを倒していくだけだ。
これからもな…」
どうして轟が過去を告白したのか。
何となく疾風は理解出来た。
『覚悟』
その二文字が轟を告白に導いたのだろう。
「轟」
「何だ?」
「俺はまだ死なない。
妹を見付けていない。丈を守れていない。
こんな中途半端なまま屍を晒す訳にはいかない」
「疾風…」
「パラサイダーを壊滅させるまで、
お前の戦いは終わらない。そうだろ?」
「…そうだな。俺とした事が、
少しビビっちまった様だ」
「らしくないぜ、轟」
轟の表情に笑みが戻る。
恵一はその遣り取りを静かに見守っていた。
戦いの幕は一気に下ろされた。
ダイヤはまず雑兵を差し向け、
亜種人類の体力の消耗を狙った。
が、その考えは恵一が見抜いていた。
「轟、『呪』だ!」
大群で押し寄せる雑兵に知恵は無い。
轟は精神を集中させ、大地に拳を叩き付ける。
「唸れ、大地よっ!!」
その瞬間、疾風は翼を広げ空中に舞った。
五鈷杵を呼び出し、空から狙い撃ちする。
マシンガンタイプに変化した五鈷杵は
地震に足を取られた敵を
確実に倒していった。
混乱する雑兵に指示は効かない。
「くっ…莫迦なっ!!」
ダイヤは焦り、歯軋りした。
「相手はたった3人だ。何故、何故っ?!」
「…亜種人類だからだ。小細工は通用しない」
クラブは冷静にそう言い放つとライフルを構えた。
「ふん。能無しが幾ら数集めても
役に立たない事が証明された訳だ」
スペードも鼻で笑っている。
彼等は自分の力を知っている。
自分の実力を信じている。
そして、己が手で敵を討っている。
戦場を知る男達は冷静に現状を見ていた。
「大したもんだよ、門田 恵一…」
クラブはそう言って微笑んだ。