先程から気配すらない。
「何処だ?」
雑魚を蹴散らしながら恵一の目をスペードを追う。
「…此処に居ない? まさか……」
嫌な予感が過ぎる。
まさか…スペードの狙いは…。
「丈?」
恵一は一瞬アジトを確認した。
だがその隙を突いて
パラサイダーは攻めてくる。
「くっ!」
丈は漣に託すしかない。
だが、相手が悪過ぎる。
あのスペードが相手では
漣も無事に居られるかどうか。
「頼む、漣…」
彼は祈った。
もう、それしか許されていなかった。
漣が殺意に気付いたのは正にその時だった。
「うわっ!」
スペードに弾き飛ばされながらも
何度もセルファーの前に立ち、丈を守ろうとする。
「…邪魔だ、どけ」
「お前こそ出て行け!
此処はお前のような奴が来る所じゃないっ!!」
力の差は歴然だ。
疾風や轟であれば或いは良い勝負かも知れない。
だが…此処は退けない。
漣にも意地がある。誇りがある。
セルファーには丈が居るのだ。
傷付き、眠る大切な仲間。
「僕は仲間を見捨てない!」
そう。
それこそが希少とされた『亜種人類』の誇り。
スペードはそんな漣を鼻で笑い飛ばす。
「何が出来る。学者風情に…」
「…試してみるか?」
脅しではない。本気だった。
「お前の様な者を殺しても
大した手柄にはならないんだがな」
スペードは笑っていた。
端から漣を相手にしていないのだろう。
楽に倒せる相手。
スペードにはその程度の認識しかない。
「…絶対に、負けられないんだ」
漣はスペードを睨みつけると自身の五鈷杵を召還した。
緊迫した状態を断ち切る様に
セルファーの緊急ベルがけたたましく鳴り響いた。
「…何?」
『ロック解除します』
セルファーは自動的に停止状態に入った。
「…丈」
「ほう……」
其処に立っていたのは完全回復した丈だった。
セルファーの力を借りる事で
更に回復能力が早まったのだ。
そして。
「第三の瞳……」
丈の額には紅い瞳が輝いていた。
スペードはその姿に身震いを起こす。
「また…強くなったって訳か……」
解る。
潜在的な能力で。
彼の急激な成長が解る。
丈は静かにセルファーから離れ、漣の前に立った。
「有り難う、漣さん。今度は俺が皆を護る番だ」
丈はそう言うと綺麗に復活した翼を広げた。
大天使降臨を思わせる様な壮大な姿だった。