激突・3

タバサ編・5

恵一はスペードの姿を捜していた。
先程から気配すらない。

「何処だ?」

雑魚を蹴散らしながら恵一の目をスペードを追う。

「…此処に居ない? まさか……」

嫌な予感が過ぎる。
まさか…スペードの狙いは…。

「丈?」

恵一は一瞬アジトを確認した。
だがその隙を突いて
パラサイダーは攻めてくる。

「くっ!」

丈は漣に託すしかない。

だが、相手が悪過ぎる。
あのスペードが相手では
漣も無事に居られるかどうか。

「頼む、漣…」

彼は祈った。

もう、それしか許されていなかった。

* * * * * *

漣が殺意に気付いたのは正にその時だった。

「うわっ!」

スペードに弾き飛ばされながらも
何度もセルファーの前に立ち、丈を守ろうとする。

「…邪魔だ、どけ」
「お前こそ出て行け!
 此処はお前のような奴が来る所じゃないっ!!」

力の差は歴然だ。
疾風や轟であれば或いは良い勝負かも知れない。

だが…此処は退けない。
漣にも意地がある。誇りがある。

セルファーには丈が居るのだ。
傷付き、眠る大切な仲間。

「僕は仲間を見捨てない!」

そう。
それこそが希少とされた『亜種人類』の誇り。

スペードはそんな漣を鼻で笑い飛ばす。

「何が出来る。学者風情に…」
「…試してみるか?」

脅しではない。本気だった。

「お前の様な者を殺しても
 大した手柄にはならないんだがな」

スペードは笑っていた。
端から漣を相手にしていないのだろう。
楽に倒せる相手。
スペードにはその程度の認識しかない。

「…絶対に、負けられないんだ」

漣はスペードを睨みつけると自身の五鈷杵を召還した。

* * * * * *

緊迫した状態を断ち切る様に
セルファーの緊急ベルがけたたましく鳴り響いた。

「…何?」
『ロック解除します』

セルファーは自動的に停止状態に入った。

「…丈」
「ほう……」

其処に立っていたのは完全回復した丈だった。
セルファーの力を借りる事で
更に回復能力が早まったのだ。

そして。

「第三の瞳……」

丈の額には紅い瞳が輝いていた。
スペードはその姿に身震いを起こす。

「また…強くなったって訳か……」

解る。
潜在的な能力で。
彼の急激な成長が解る。

丈は静かにセルファーから離れ、漣の前に立った。

「有り難う、漣さん。今度は俺が皆を護る番だ」

丈はそう言うと綺麗に復活した翼を広げた。
大天使降臨を思わせる様な壮大な姿だった。
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