激突・4

タバサ編・6

翼を広げた瞬間、
丈は右手でスペードの顔を掴み
そのまま外へを移動していく。

物凄い握力にスペードは何も出来ないまま
再び戦地に引き戻される格好となった。

「お前と戦うのに、あの場所じゃ狭いんでね」

丈はそう言うと五鈷杵を召還する。

本心は違う。
あの場所で血生臭い戦闘はしたくなかった。
アジトは今や彼と仲間達の『家』。
その場所を血で穢したくは無い。

スペードは右手を鎌状に変化し、
音も無く襲い掛かってきた。

「!!」

それを五鈷杵で受け止め、
丈は腹部へ蹴りを連打する。

「ぐっ…!」

衝撃でスペードの体が飛ばされた。

一打だけなら防げたが
素早く繰り出された連打では
流石のスペードもダメージを受ける。

「…数段強くなったな」

だが、スペードは満足げな笑みを浮かべた。

「それでこそ狩り甲斐が有る」
「お前の野望は果たさせない。俺達が食い止める」

三つ目に覚醒してから確かに自分でも自覚していた。
潜在していた能力が体中に満ちていく事を。

それを『怖い』とは思わなかった。
コントロール出来るからだ。

紅い瞳が真っ直ぐに敵を捉えている。

『恐れる事は無い。俺は、俺と仲間達を信じていけば良い』

丈は五鈷杵を構え直し、スペードの次の動きを待った。

* * * * * *

激しい肉弾戦が繰り広げられる。
剣と鎌が火花を散らす。

丈は『呪』を封じたまま戦い続けていた。

何故か。
試したかったのだ。自分の能力の限界を。

こんなに好戦的になったのは初めてだ。
恐らく、…今迄以上に。
相手がスペードだから、だろう。

『絶対に負けない。負ける訳にはいかない』

それが原動力。

「はっ!!」

型が綺麗な故に隙も大きかった剣技も
いつの間にか修正されている。
より実践的になっていた。

「末恐ろしい逸材だな、お前は」

スペードは笑みを浮かべ
それでも楽しそうに鎌を振り下ろす。

久しぶりの楽しみ。
拮抗した実力者と闘う程、血が騒ぐ瞬間は無い。
狩りの本能。それが騒いでいるのが解る。

「ふ…愉しい。愉しいぞ!!」

スペードは狂喜に満ちた目で丈を見つめていた。

* * * * * *

その2人の戦いにいきなり終止符が打たれた。
疾風とクラブが現れたのだ。

「退き時だ、スペード。ダイヤの軍が全滅した」

冷静にクラブがそう告げる。

「…けっ。使えない奴め」
「言うな。ビャッコが強過ぎた」

轟が軍を壊滅に追い込んだのだ。
アジトに向かった者達は
恵一によって倒されている。

「…お預けだな」

スペードの言葉に丈は返事をしなかった。

言わずとも解っている。
これは『始まりだ』と。

「…四天王」

丈は消え去っていく3人の姿を
ジッと見つめていた。
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