狙われた歌姫

タバサ編・8

その時だった。アジト内に警報が鳴り響く。

「パラサイダーッ?!」

思わず構える丈に恵一が諭す。

「会議室に向かう。
 恐らく、人間のエリアに潜入したのだろう。
 討伐の作戦を立てなければ」

「解った!」

丈はそう言うと部屋を飛び出していった。

仲間を呼びに行く為だろう。

「…それで良い。
 これで、何が遭っても彼等は大丈夫だ…」

恵一は謎めいた言葉を残し、会議室へと向かった。

* * * * * *

「こんな鬱蒼と茂った森、
 さっさと燃やしちゃおうよ」

ダイヤはイライラしながら
『静かなる森』を睨み付ける。

「待て、ダイヤ。
 火に『耐性が無い』のは我々も同じ。
 言わばコレは『諸刃の剣』だ」
「…まぁ、クラブがそう言うのなら」

ダイヤは新兵器を眺め、溜息を吐いた。

「火に耐性が無いのは僕達だけじゃない。
 人間もだ」
「そうだな」
「でも…」
「ん?」

「奴は違う。スザクだけは…」
「あぁ…」

「スペードじゃなくても…
 倒したくなる位邪魔な存在だな」

「…興味深い存在だと、俺は思うがな」
「…?」

「あのセイリュウが、
 誰にも興味を抱かなかったセイリュウが
 唯一心を許した存在。
 ライバルとしても興味深い…」

こんな状況でもクラブは微笑んでいる。
その堂々とした風貌は
総帥の姿を連想させる。

「で、肝心のスペードは?」
「さぁ? 『食事』してから来るんじゃない?」
「…相変わらずだな。
 まぁ…間違いなく亜種人類達が現れる筈だ。
 準備を抜からない姿勢には敬意を評しようか」
「…喰うなら人間だけ、とは行かないか。
 数が少なくなったからね」
「まぁ、奴に好き嫌いは無いんだ。
 雑兵位喰わせてやれ」
「兵士が不足しない程度にね」

ダイヤはそう言って無邪気な笑みを浮かべた。

* * * * * *

「L地区? …何でこんな所に」

パラサイダーの反応を探知した漣が
盛んに首を傾げる。

「中立地区だな。
 此処には森しかない筈だが…」

轟の言葉に丈が素早く反応する。

「…タバサだ。
 タバサが此処に居るんだ!」

「タバサ? 歌姫がどうして奴等の…」

其処まで言い掛け、漣も何かに気付いた。

「…此処は『静かなる森』。
 タバサを此処に隔離し、外社会から保護してきた」

恵一の言葉に全員が彼を見る。

「タバサは…美雨だ」
「…親父」

恵一の告白に、
特に疾風が激しい動揺を見せていた。

恵一だけは全てを知っていたのだ。
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