接 触

人類共存編・1

グラフィックマップでは北に位置するポイント。
自分達が生活しているH地区よりも
更に住み難さを感じる場所。

建物跡のコンクリート片さえも見当たらず
一面を白い砂で覆われている。

「此処が…人間の住むエリアか」
丈は暫し砂の世界を黙って見つめていた。

「見事に何も無いんだな。
 アクアミル貯蔵の装置も見当たらない。
 住むとしたら…地下、かな?」

体を飲み込もうとするかの様な砂地の感触。

「…とにかく、村か集落を探そう。
 きっと何処かに在る筈だ」
丈は軽く頷いて見せると、静かに前へと進み出した。

* * * * * *

1時間程歩いただろうか。
先程から何者かの気配を感じる。

パラサイダーではない。
だが、複数の気配が存在していた。
そして、其処から感じるのは正しく
『殺気』だったのだ。

丈は気付かない素振りを保ったまま更に歩く。

『誰なんだ?』

背後の殺気が段々増えていく。
人間、なのだろうか?

仮に人間だとしたら、戦闘に持ち込むのは
状況を悪化させるだけだ。

「この地に住んでいる人達ですか?
 自分は、皆さんに会いに来ました」

丈は思い切った行動に出る事にした。
まず、どんな形であれ
彼等に接触しなければならない。
全てはそこから始まるのだ。

彼の声に答えるかの様に現れる影達。

やはり、勘は正しかった。
手頃な武器らしき物を携えた男達が
直ぐに彼を取り囲む。

丈は努めて笑顔を浮かべ、両手を上げて見せた。

* * * * * *

「…痛たたたっ」

石造りの牢獄。

村落にやって来れたのは良いが、
彼等は丈の言葉に耳を傾ける事無く
そのまま投獄してしまった。

「やっぱりこの辺じゃ他の人間は居ないのか。
 或いはパラサイダーに勘違いされたのかな。
 抵抗しないで正解だったって訳だ」

同じく石造りのベッドに身を預け
静かに天井を見つめる。

「砂の下にカモフラージュされた場所か…。
 自然と、パラサイダーから守る為に
 考え出された生活なんだろうな」

こんな目に遭わされても怒りは込み上げて来ない。
自身が人間として生きてきた時間が長いからか。
それとも、別の要因か。

「今は様子を見るしかない。
 下手に動いて刺激を与えたく無いし…」

動かなければ向こうが痺れを切らすだろう。
丈はそれに賭けていた。

「俺が動くのは後で良い。
 その方が好都合だ」

彼は再びゆっくりと体を起こした。

「…飯位は与えて貰えると嬉しいんだが、
捕虜にしては贅沢な悩みかな?」

* * * * * *

会議室で只一人、険しい顔を浮かべているのは疾風だった。

「兄さん…」
「…美雨か」

「やっぱり、心配?」
美雨はアクアミルを手にしていた。
それを疾風にそっと手渡す。

「兄さんは…私と違って
 人間に虐待を受けて居たんだものね。
 信用出来なくても仕方が無いかも知れない…」
「…そんな小さな事を言っても仕方が無いさ。
 過去は過去だ。
 俺はもう、そんな小さな事には拘らない様にしている」
「じゃあ…?」

「俺が心配なのは…」
疾風はアクアミルを受け取ると、そっと喉を潤した。
優しげだが哀しい笑みを浮かべ、愛しい妹を見つめる。

「丈の事だ」
「…そうね」
「気付いていたのか?」
「勿論よ」
美雨もまた、悲しげな瞳で兄を見つめる。

「勾玉を解放してから、
 丈は皆と距離を置く様になったでしょ?
 叔父様が亡くなった時も、あんな表情はしなかった。
 酷く思い詰めた様な……」

「……美雨」
「…何?」

「どんな未来が待ち受けていても、
 俺達は丈を信じる。
 そうだな…」
「勿論よ。漣や轟も、一緒だわ」
妹の言葉に、漸く疾風はしっかりと頷いた。
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