自分達が生活しているH地区よりも
更に住み難さを感じる場所。
建物跡のコンクリート片さえも見当たらず
一面を白い砂で覆われている。
「此処が…人間の住むエリアか」
丈は暫し砂の世界を黙って見つめていた。
「見事に何も無いんだな。
アクアミル貯蔵の装置も見当たらない。
住むとしたら…地下、かな?」
体を飲み込もうとするかの様な砂地の感触。
「…とにかく、村か集落を探そう。
きっと何処かに在る筈だ」
丈は軽く頷いて見せると、静かに前へと進み出した。
1時間程歩いただろうか。
先程から何者かの気配を感じる。
パラサイダーではない。
だが、複数の気配が存在していた。
そして、其処から感じるのは正しく
『殺気』だったのだ。
丈は気付かない素振りを保ったまま更に歩く。
『誰なんだ?』
背後の殺気が段々増えていく。
人間、なのだろうか?
仮に人間だとしたら、戦闘に持ち込むのは
状況を悪化させるだけだ。
「この地に住んでいる人達ですか?
自分は、皆さんに会いに来ました」
丈は思い切った行動に出る事にした。
まず、どんな形であれ
彼等に接触しなければならない。
全てはそこから始まるのだ。
彼の声に答えるかの様に現れる影達。
やはり、勘は正しかった。
手頃な武器らしき物を携えた男達が
直ぐに彼を取り囲む。
丈は努めて笑顔を浮かべ、両手を上げて見せた。
「…痛たたたっ」
石造りの牢獄。
村落にやって来れたのは良いが、
彼等は丈の言葉に耳を傾ける事無く
そのまま投獄してしまった。
「やっぱりこの辺じゃ他の人間は居ないのか。
或いはパラサイダーに勘違いされたのかな。
抵抗しないで正解だったって訳だ」
同じく石造りのベッドに身を預け
静かに天井を見つめる。
「砂の下にカモフラージュされた場所か…。
自然と、パラサイダーから守る為に
考え出された生活なんだろうな」
こんな目に遭わされても怒りは込み上げて来ない。
自身が人間として生きてきた時間が長いからか。
それとも、別の要因か。
「今は様子を見るしかない。
下手に動いて刺激を与えたく無いし…」
動かなければ向こうが痺れを切らすだろう。
丈はそれに賭けていた。
「俺が動くのは後で良い。
その方が好都合だ」
彼は再びゆっくりと体を起こした。
「…飯位は与えて貰えると嬉しいんだが、
捕虜にしては贅沢な悩みかな?」
会議室で只一人、険しい顔を浮かべているのは疾風だった。
「兄さん…」
「…美雨か」
「やっぱり、心配?」
美雨はアクアミルを手にしていた。
それを疾風にそっと手渡す。
「兄さんは…私と違って
人間に虐待を受けて居たんだものね。
信用出来なくても仕方が無いかも知れない…」
「…そんな小さな事を言っても仕方が無いさ。
過去は過去だ。
俺はもう、そんな小さな事には拘らない様にしている」
「じゃあ…?」
「俺が心配なのは…」
疾風はアクアミルを受け取ると、そっと喉を潤した。
優しげだが哀しい笑みを浮かべ、愛しい妹を見つめる。
「丈の事だ」
「…そうね」
「気付いていたのか?」
「勿論よ」
美雨もまた、悲しげな瞳で兄を見つめる。
「勾玉を解放してから、
丈は皆と距離を置く様になったでしょ?
叔父様が亡くなった時も、あんな表情はしなかった。
酷く思い詰めた様な……」
「……美雨」
「…何?」
「どんな未来が待ち受けていても、
俺達は丈を信じる。
そうだな…」
「勿論よ。漣や轟も、一緒だわ」
妹の言葉に、漸く疾風はしっかりと頷いた。