最初の一歩

人類共存編・2

石造りの簡素なベッドで横になっていると
入口の奥から何か物音が聞こえてくる。

「…声?」
ゆっくり近付いていくと、
不意に扉に取り付けてある小窓が開いた。

幾つもの好奇心旺盛な瞳。

『子供か…』

丈はフッと微笑を浮かべ、彼等を優しく見つめた。

「パラサイダーじゃないよ、このお兄ちゃん」
「そうだよな。
 大人が間違えたんだよ」
「酷いよなぁー!」
「可哀想だよ」

子供達はどうやら彼の事を認めているらしい。
少なくても大人達とは違う。

「兄ちゃん、名前は?」
「丈、だよ」

「丈兄ちゃん!」
「丈兄ちゃんだ!」
「ねぇ、腹減ってない?」
「喉渇いた?」
「…大丈夫だよ、有難う」

「俺、水持って来てるから」
「私、カプセル!!」

子供達の善意に励まされる。
希望の炎が胸の奥で再び燃え上がるのを感じ取る。

『この子達の為にも…
 俺はやっぱり諦められない』

丈は改めて、人類との架け橋としての使命を
強く感じ取っていた。

* * * * * *

転送準備が少しずつ完了していく。

軽量部隊を送ると云っても
やはり多少の時間は掛かるものである。

ハートは時間座標軸を調整し
ポイントを絞っていく。

「流石にもう少し時間が掛かるか」

自分の仕事に誇りを持つだけに
初歩的な失敗だけは許せない。

「先発隊として赴くのはダイヤだけか」
「あぁ…」

音で座標値の確認をしながら
クラブが静かに返事をする。

「出立しないのか?」
「態と遅らせる。
 スペードと共に、第二陣だ」
「…ふ、哀れな人間共よ」

ハートは苦笑を浮かべている。
忙しなく動く指に反比例して。

「レジスタンスの動きは探っているのか?」
「…総帥から気になる情報を戴いた。
 スザクがB地区に居るらしい」

「スザクが、何故?
 我々の計画に気付いたのか?」
「…恐らく別の考えだろう」
「別?」

「人類と共闘するのではないか?」
「共闘……」
不意にハートの指が止まる。

「想定外の行動だ……」
「だろうな」
クラブもその考えに同意していた。

「全く自由な発想と行動。
 何者にも縛られない生き方。
 それが…スザクの正体だ」
「自由……」

ハートには理解出来ない単語、『自由』。
それがどうしてこんなにも重く響くのか。

「不気味な感じを受ける」
「全くだ」

ハートは、丈の行動に不気味さを感じ取り
クラブは、彼の行動に敬意を表している。

「大空を舞う火の鳥。
 その真の姿をこの目に焼き付ける時が
 間違い無く近付いている」
「その時、勝利するのは
 果たして…どちらなのだろうな、クラブ」
「…解らん」

クラブは正直に自身の考えを吐露した。

『解らない』

それが、全てである。
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