『生命』を護る為に

人類共存編・5

恐らくは少女の母親であろう。
後方で泣き崩れ、少女の名を叫ぶ夫人。

『…見殺しに、出来る訳無い』

丈はゆっくりと扉の上空を見上げた。

「…例えば。空を飛んでくる敵に対して。
 何か対抗策は持ってるんですか?」
「? 何の事だ?」

「パラサイダーには色んな種類が居ます。
 空を飛べる物、大地を掘り進む物。
 そのタイプが攻めて来た時、この扉では無力だ」
「……貴様っ」

「お母さん」

丈は門兵をかわし、母親に優しく声を掛ける。

「娘さんの出掛けた場所、判りますか?」
「多分…花畑だと……。
 此処から西へ…10分程……」
「西へ10分の花畑、ですね」

「丈君。パラサイダーは凡そ20km先まで接近している」

リーダーも流石に口を挟んで来た。

「だから行くんです」
「しかし1人では…」
「…解ってます」

丈は静かに振り返った。
其処に居るのは、心優しい青年では無く
数々の激戦を戦い抜いて来た戦士で在った。

「皆さんの手は煩わせません。
 これは『俺が独断』で行う事です。
 『勝手に』飛び出して、パラサイダーと戦います」

門兵に対しての怒りも、隠す事無く。
丈は激しい怒りと悲しみを曝け出していた。

「俺は未来に繋がる生命を見捨てたりしない。
 どんな事が遭っても…」

それこそが恵一の指し示してきた『生き方』でもあった。
未来へ繋がる大切な生命の欠片。
そうして疾風も、美雨も、漣も、轟も
彼に救われて来たのだから。

「必ず一緒に帰って来るから、心配しないで」
「丈兄ちゃん! レノを助けて!」
「レノ、頼むね!!」

子供達の励ましを受け、丈は静かに頷くと
背中に4枚の翼を召喚した。

「行って来る」

そう言い残し、彼の体は一瞬の内に空中へ舞い上がり
そのまま扉を簡単に通り超えて外界へと消えた。

彼の言葉通り、『飛行タイプ』に対し
この扉は全く防御の意味を成さなかったのだ。

「…我々が追うべき業を、
 客人である彼に負わせてしまったとは……」

リーダーは苦悩していた。
どちらも選べなかった歯痒さ。
その苦しみを、もしかしたら彼は見抜いていたのかも知れない。

『これは『俺が独断』で行う事です。
 『勝手に』飛び出して、パラサイダーと戦います』

丈が残した言葉には
彼を思いやる優しさが溢れていた。
その言葉の裏に秘められた、丈の強さが。

「…天使様じゃ」

一連の様子を見ていた1人の老婆が
丈の飛び去った空を見上げて呟く。

「太陽を呼ぶ天使様…。
 本当に、この世界に居られたのじゃ…」

感極まり、涙を流して感謝を捧げる老婆の姿に
リーダーは只頷くしかなかった。

「無事で居てくれ、丈君。
 そして…レノを頼む……」

* * * * * *

「漸く到着か」

慣れない長距離転送に
ダイヤは暫し閉口気味であった。

「コレは美味い食事でもしないと
 気が晴れないよな」
見渡す限りの砂地。
味気の無い風景。

「さっさと潰して帰るか。
 土産も期待出来ないだろうな」

多少の苛立ちを胸に、
ダイヤは軍隊を進ませる。

丈が危惧していた通り
今回の先発隊の中には
飛行タイプもドリルタイプも揃っていた。
Home Index ←Back Next→