『スザク』の存在意義

人類共存編・7

多勢に無勢と云う言葉。
だが、今の丈には当て嵌らないらしい。

紅い閃光が空を、大地を流れていく。
そして次々と倒れていく、パラサイダー軍。

ダイヤはその力に
今迄経験事の無い『何か』を
感じ取っていた。

知る筈も無い。
それは今迄、自分達が与えてきたもの。
それは…『恐怖』と云う感情。
ダイヤは確かに、丈の存在に恐怖していた。

その時。
戦況が変化する。

「苦戦してるな」

聞き慣れた声に振り返ると
其処には転送されたクラブとスペードが立っていた。

「クラブ……」
「やはりスザクか」

「奴は…化け物か?
 一人で、何故一人だけなのに…」
「スザクだからだ」

スペードは珍しく深い声で答えた。
クラブも同意している。

「底知れぬ能力を持つ存在。
 だからこそ、
 最も倒し甲斐の有る存在」

スペードは真っ直ぐに
上空の丈を見上げている。

丈も又、感じていた。
スペードの視線を。

「…到着したか」

丈は少し顔を顰めた。

雑魚との戦いとは違う。
スペードとクラブが参戦するとなると
自分1人ではかなり戦況が不利になる。
レノを守る事に専念しようにも
スペードの攻撃をかわしながらでは
事実上不可能だろう。

「どう凌ぐ、この窮地…?」

五鈷杵を握る手に汗が滲む。

そんな丈の事などお構い無しに
スペードは上空に突撃を掛けて来た。
彼も又それを迎え撃つ。

怯まない。
それこそが、勝利への道筋だから。

『救ってみせる。
 必ず、この世界を…生命を…』

その決意が、即ち今の丈の力。
そしてその力こそが
確実にスペードを上回る力となっていた。

* * * * * *

激しく打ち鳴らされる五鈷杵と鎌。
どちらも引く事無く、激しく打ち込む。

空中で、地上で。
雌雄を決する戦いはそれこそ
双方の『勝利』への執念を
見事な迄に表していた。

面白くないのはダイヤである。
楽勝と思われたこの作戦。
丈一人によって見事に狂わされ、
その丈はスペードと戦いを繰り広げている。

まるで遊ばれている様な力の差。
スペードとは互角に戦っていると云うのに。

ダイヤは激しく嫉妬していた。
丈に。
スペードに。

『く、面白くない…っ』

ダイヤの視線が不意に
レノを護る炎の壁に移る。

『勢いが弱くなっている…』

悪知恵が回るのも軍師の素質か。
ダイヤは酷く嬉しそうにほくそ笑んだ。

『目に物を見せてやる』

クラブは丈とスペードとの戦いに神経を傾けている。
偶然だが、ダイヤの邪悪な策に気付いてはいない。

『行けっ!』

ダイヤは声を出す事無く部下に突撃を命じた。

心を持たないパラサイダー軍。
痛みも熱さも感じない。
その集団が、真っ直ぐに花畑へ進行する。

丈とクラブが
その異変に気が付いたのは
ほぼ同時だった。

「止めろっ!!」
「…ダイヤ?」
「後悔させてやる。
 このダイヤを小馬鹿にした事をなっ!!」

狂喜に輝くダイヤの瞳。
流石のスペードも
苦虫を潰した様な表情を浮かべた。

「小者が。
 折角の真剣勝負に水を差しやがって」
「レノッ!」

勝負を放棄し、レノを救おうと飛び出す丈。
その前をやはり、スペードが遮る。
敵前逃亡は許さないらしい。

「邪魔をするなっ!」
「ならば、完膚無き迄に
 この俺を倒す事だな…スザク」
「お前達は……っ!」

丈の怒りが激しく炎とリンクする。
レノを護る為に、更に燃え広がる。
そして丈自身の闘志も。

「それで良い。
 怒りに染まったお前の強さを見せてみろ」

挑発的なスペードの態度と言葉に
丈は怒りで冷静さを失い掛けていた。
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