亜種の戦士達

人類共存編・8

『丈!』

その時。
脳裏にハッキリと届いた声。
間違いなくこの声は。

「疾風?」

丈の目は、炎を包むかの様な
優しくも逞しい風の壁が生み出されているのを
しっかりと捉えていた。

「戦いに専念しろ、丈。
 雑魚は俺達が処分する」
「俺達に任せておけ、丈!」

其処には亜種人類の戦士として
疾風と轟が存在していた。

漆黒の翼が疾風の背中を強調している。
悪魔の様な真っ黒の翼。
だが、レノは怖さを感じなかった。

そして、白き獣へと変身していく轟に対しても
嫌悪感や恐怖は感じなかった。

「凄い……」

レノは見惚れていた。
亜種人類の限り無き力を。

彼女が御伽噺の様に聞いていた
『天使』の存在。
もし現実に居るのだとしたら
それはきっと…『彼等』なのだと
彼女は確信していた。

轟の遠吠えが大地を震わせる。
怒り、悲しみ、そんな感情が
レノの心に響いた。

* * * * * *

ダイヤへの憎しみは消えずとも
その負の感情に踊らされる事無く
彼は今日迄戦い抜いている。

それが出来るのは、
轟の深い愛情に措いて他ならないだろう。

最愛の存在であった女性。
彼女への想いを汚さない為に。
彼女が愛してくれた『亜種』の自分に
誇りを持って戦う事。
それが、轟の戦う『理由』なのだ。

疾風の怒りに燃える目は
真っ直ぐダイヤを捉えていた。
彼はこの様な卑怯な手を最も嫌う。
五鈷杵でそのまま射抜く事も出来るが
轟の為に、其処は我慢している。

今、自分がすべき事は
この少女を完璧に守り抜く事。
それだけが、今の自分の仕事。
余計な行為は仲間の戦意を殺ぎ、
行動を妨害する。

疾風は或る意味完璧主義者である。
強要こそはしないが、
その姿勢の厳しさは誰もが周知している。
敵である、クラブさえも。

『アレが攻撃に転じないのは
 幸いとしか言いようが無いな』

クラブは背中に嫌な汗を感じていた。
亜種人類の転送については
まるで情報を得ていなかった。

つまり、此処最近になって
急激に彼等は転送能力を身に付けたのだ。

『美雨の能力か?
 いや、それならば既に
 総帥の情報内に有る筈…』

亜種人類の突然変異でも発生したのか。
そう考えれば楽だが、
今後の対策には繋がらない。

『今回の作戦は大失敗か…。
 お叱りは覚悟せねばならんな。
 特に、ダイヤのこの行為には…』

クラブはサングラスの縁を上げると
スッと疾風に背を向けた。

「スペード、ダイヤ。
 速やかに退却する」
「…クラブ?」
「そりゃそうだな。
 今回は作戦も糞も
 有ったもんじゃねぇ…」

不満げなダイヤを一瞥し
スペードは鎌を収納した。

「又 今度だな、スザク」
「……」
「ん? どうした。
 食って掛かって来ないのか?
 随分静かじゃねぇか」
「次が…『最期』になる」
「?」

丈の言葉が気になるものの
それ以上の追求はせずにスペードも退却する。

「…やっと終わったか」

丈は何とか窮地を脱する事が出来て
漸く笑みを浮かべた。
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