密談・1

決戦前夜編・1

特別室のモニターを眺めていると
不意に背後から人の気配を感じた。

「総帥」
「熱心だな、クラブ。
 情報収集中か?」
「まぁ…その様な感じですかね」

総帥はそのままクラブの横に立ち、
静かにモニターを眺めている。

モニターにはこれ迄の
亜種人類とパラサイダーとの壮絶な戦いが
映像として映し出されてた。

焦点に当てられているのは
勿論『スザク』、丈である。

「見えているのか?」
「はい。
 脳に直接映像を流せば可能ですから」
「成程」

見れば、クラブの頭部と
モニターの操作パネルの間には
数本のケーブルが存在していた。
このケーブルを頭部に装着する事により
目の存在しないクラブでも
脳に映像を送信する事が出来るのだ。

繋がっているケーブルこそ、
今 正にクラブの『目』その物だった。

「随分苦戦しているな」
「はい…。
 あの青年の成長には目を疑うばかり。
 流石ですね」
「ふふ…」

意味有りげなクラブの言葉に
総帥も意味深な笑みを浮かべている。

「情報には多少のタイムラグが生じている。
 それを考慮した上で
 今の状況を判断してみたら…どうだ?」
「戦況は非常に我々にとって不利ですね」
「ほぅ」

「量よりも質の問題です。
 人間共は亜種人類を中心に纏まりつつあります。
 今迄に起こり得なかった事態です」
「確かに、そうだな。
 同種同士でもいがみ合っていた生き物が
 今は手を取り合い、我々に挑もうとしている…」
「期待通りですね」

クラブは更に意味深な発言を残した。
総帥もそれに対し、軽く頷く。

「もう、お前は全てを把握しているのか?
 それとも待っているのか、クラブ?」
「あくまでも仮説に過ぎませんが
 或る程度の事迄は…」
「そうか…」

クラブは何を思ったのか、
突然ケーブルを外してモニターの電源を切った。

「私には教えて頂けますか?
 あの青年の事。
 そして…貴方との繋がりを」
「…丈、と…言ったな」
「はい…」
「丈……。
 偶然とは言え、不思議なものだ」
「…総帥」
「……」
「……」

「…良いだろう」
「有り難き幸せ。
 勿論、多言は致しません。
 四天王相手と言えども…
 これは貴方と私だけの秘め事。
 命に代えても、約束は違えませぬ」

総帥は何かを思案したかの様だったが
無言でクラブを促し、その場を後にした。

* * * * * *

雨音が静かに耳に届いてくる。
無言の部屋、明かりの無い部屋で
丈は一人 明日を見つめていた。

決戦は近い。
人類とパラサイダー。
雌雄を決する時は来た。
避けられない戦い。

「…今迄」

丈はそう呟くと、言葉を飲み込んだ。

もう、此処迄来たのだ。
今更である。
それを望んだのは『自分』なのだから。

「母さん…」

鏡に映る自分の第三の瞳を見つめ
丈は静かに語り掛ける。

「この期に及んで…
 俺はまだ迷ってる。躊躇ってる。
 本当にこれで良いのか…」

丈の心の苦しみを
一体誰が受け止めてやれるのか。
鏡に映る額の瞳は哀しげな様子で
静かに丈を見つめていた。
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