密談・2

決戦前夜編・2

其処は既に閉鎖された筈の空間。
誰も踏み込んだ事の無い、寂れた研究室だった。

装置も旧式だが、かなり使い込まれており
時折丁寧なメンテナンスを施されているのか、
機械達の機嫌が頗る調子良い。

「覚えているか…?」

総帥はそう言うと、少し微笑んだ。

四天王の誰にも見せた事が無い
とても優しい笑みだ。

「…と、申しますと?」
「覚えてないのなら、それでも良い。
 此処は…お前の誕生に縁有る場所だ」
「此処が…私の生まれた場所」
「そう」

総帥はそう言うと、モニターの情報を
コードで彼に転送する。

「クラブ。
 いや…『セカンド』よ」
「?」
「お前は此処で生み出された。
 私のクローン体であり、息子として。
 あの子の、たっての願いで…」
「あの…子?」

「『ファースト』。
 私の、最愛の息子だ」

クラブの脳裏に漸く映像が届く。
そしてその映像を確認すると、
彼は言葉を失った。

『ファースト』と『セカンド』。
その意味を、理解したのだ。

「私は…パラサイダーとして
 己を認識していました。
 その筈が、私は…人食を行わない。
 行わずとも生きてこれた。
 その疑問を…ずっと抱いていました」

クラブは、漸く…それだけを口にし
又 黙り込んでしまった。

流れて来る映像の心地良さ。
この感覚は何だろう?

「懐かしい…」
「そうだ。それが人間の忘れてしまったもの。
 『感情』なのだ…」
「総帥…」

「あの子は…人間が失ったものを取り戻そうと
 たった一人だけの戦いに挑んでいる」
「……」
「そして、漸くその解決策を見出した。
 だが……」
「だが…?」

「それは即ち…。
 あの子の『存在』と引き換えに
 奴等が得るものなのだ」
「……!」

「歴史は繰り返す。
 私は再び、あの子を失う事になる」
「それは…それだけは……」

其処に、パラサイダー四天王の
クラブの姿は無かった。
セカンドとしての、彼の姿だけが在った。

「ファースト様…。
 どうして、その存在を今迄…」

彼の声はとても深く、静かに、そして悲しげだった。

「少しずつ、思い出しました。
 自分の事。ファースト様の事。
 そして…貴方の事を、父上……」
「セカンド…。我がもう一人の愛息よ」

総帥は静かにモニターを見つめる。
その姿を、必死に脳裏に焼き付けるかの如く。

「この世界を、あの子を敵に回しても…
 あの子を救いたいと願うか?
 それとも…今度こそ
 あの子の『悲願』を成就させてやるべきか?」
「父上様……」
「私はな、セカンド。
 辛かったのだよ…」

総帥が言わんとしている事は
痛い位に理解出来た。
正に同じなのだ。

確かに己は総帥のクローン体に過ぎない。
だが、心迄クローンで在る訳ではない。
彼の心は、彼だけのものなのだ。

「父上様、私は…」

セカンドは、静かに言葉を紡ぎ始めた。
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