科学者として

決戦前夜編・10

漣が研究室に篭り切りになり
はや5日が過ぎようとしていた。
流石に轟も心配になったのか
アクアミルを片手に
研究室の中に入って行く。

「漣…?」
「…」

「漣……?」
「…だ」

「さざな…」
「出来た! 漸く完成だっ!!」

漣の歓声に思わず腰を抜かして驚く。
唖然として彼を見つめる轟を
彼は不思議そうに見つめ返した。

「あれ、居たの? 轟」
「居たの…って……」
「まぁ良いや!
 一寸コレを着てみて」
「おい……」

呆れてはみるものの
これだけ嬉しそうな漣を見ていると
どうしても反論する気が失せる。

「これは……」
「どう?
 パラサイダーの戦闘服を
 少し改良してみたんだけど」
「今迄の服よりも軽いな。
 これで強化されているのか?」
「勿論。
 今回の物は勾玉の力に反応して
 様々な形態に進化する…筈なんだ」
「筈って…」

「過去の文献に残ってたんだよ。
 進化する防具ってのがね。
 僕も最初は信じられなかったんだけど…
 この服の繊維形状が
 文献の資料と全く同じで」
「過去の文献って…?」
「あれ? 轟は知らない?
 亜種人類の祖先が残したってされる文献」
「俺が知る訳無いだろう」
「興味深い内容なのに…」

漣は心底残念そうに呟いた。
当然文献は当時の文字で記されており
どんなに興味深い内容であったとしても
読破する為にはそれ相応の
時間と努力を要するのだ。
轟がそれ等を乗り越えて読むとは
到底思えないのも事実。

「まぁ、何にせよ。
 これでパラサイダーとの最後の戦いも
 準備は万全だって事だな」
「そうだね…」
「大丈夫だ。今迄だって大丈夫だったんだ。
 俺達は負けたりなんかしねぇよ」

轟の力強い発言に漣の不安が消えたのか、
漸く彼も安心して笑顔を見せた。

* * * * * *

此処は誰も立ち入らない部屋。
ソリティアは一人静かに
小さなモニターを見つめている。

画像は決して鮮明な訳ではない。
音声も所々に酷いノイズが入っている。
かなり年季の入ったディスクなのだろう。

「もう何度…こうやって
 この映像で心癒されたか判らない…」

その目にはまるで
少年の様な寂しさが宿る。

「結局、私は…
 過去の悪夢に狂わされるだけの…」

そう呟き、また映像を見入る。
其処に写されているのは
白衣を着た青年の姿だった。

『ソリ、ティア…。
 これだけ、は…忘れ…ないで…欲しい…。
 俺にとって、君…は……』
「ポーン……」

映像に映る青年にそっと声を掛け、
ソリティアは再び
沈黙の世界に戻って行った。
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