造られた『人種』・1

決戦前夜編・3

『大丈夫だよ、俺が必ず…』

モニター横のスピーカーから流れる
とても優しげな声。
それが誰の声なのか…
もう、言わずとも判っていた。

『必ず、護るから…』

いつも、そうだった。
彼はどんな時でも誰かを『護って』来た。
どんな時代に降り立っても
その姿勢だけは変わらなかった。

彼が『護る』ものは…
『護り』たいものは…。

「セカンド…」
「はい、父上様」
「お前には…全てを話そう。
 亜種人類に関する事も、な」
「亜種人類…」
「アレは…
 突然変異種等では無い」

総帥の言葉に、
セカンドは思わず身を乗り出した。

* * * * * *

美雨はその頃、
唯一人で空を見上げていた。

少しずつ薄くなる雨雲。
やがて訪れるであろう、太陽。
だが、心は晴れない。

「丈…」

彼の苦しみはずっと感じていた。
だが、声を掛ける事も叶わず
今に至っている。
もう間も無く開戦する。
その前に、どうしても知りたい事が有る。

彼の…『真の願い』を。

「話してはくれないかも知れない。
 でも、一人で苦しませたくない…」

美雨は何となくだが気付いていた。
丈の存在は自分と近い。
そして自分とは相反する。

巫女と神子。

その違いも、感じ取っていた。
だからこそ、解り合いたかった。

「私達がまだ知らない事実…。
 きっと其処に全ての謎を解く鍵が…」

そう呟き、思わず彼女は後ろを振り返った。
人の気配を感じたのだ。
此処に居る筈の無い、女性の気配。

『漸く逢えました』
「…貴女、は?」

儚げな、半透明の女性。
強い意思の力が、彼女の姿を維持している。
こんな人物と会った事は一度も無い。

『私は…丈の母親です』
「丈…の?」
『はい。この時代に生まれ、育った
 あの子の母親…』

この時代、と云う単語が引っ掛かった。
丈は50年前の世界で生まれ育っている。
この時代には時空転移でやって来た筈だ。

だが、目の前の女性が嘘を吐いてるとは
全く思えないのも事実だった。

矛盾が生じている。
自分が抱く『謎』に繋がる矛盾。

「教えて下さい」

美雨は思い切って声を掛けた。

「教えて下さい。
 丈は私達に一体何を隠しているんですか?
 彼は…これから独りで
 『何を』成そうとしてるんですか?」

『私が知り得る限りの事は…
 全てお教えしましょう。
 貴女だけに、どうしても伝えたい』
「…有難う御座います」

美雨の思いは通じた。
彼女は、美雨の気持ちに答えてくれた。
丈を愛している女同士。
だからこそ、かも知れない。

『丈の父親は…ソリティア。
 現パラサイダー総帥』
「…え?」
『彼も又 亜種人類の一人。
 そして…私も…』

彼女の背後にゆっくりと広がる見事な紅い翼。
間違いなく、丈と同じ物だ。

『私達は…作られた人種なのです。
 遺伝子改造の…慣れの果ての姿』
「……改造?」
『神の気紛れではなく
 奢り高ぶった人類の悪意に因って
 生み出された…
 悲しき生命体なのです』

予想すらしていなかった内容に
美雨は言葉を失ってしまった。
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