造られた『人種』・2

決戦前夜編・4

『貴女は…この世界と時間を共有する
 別次元の世界の存在を御存知ですか?』

美雨に語り掛けて来る優しい声。
だが、其処には言い知れぬ悲しみが含まれている。

「…何となく、ですが」
『古典では…パラレルワールドと称されます。
 その世界で、私達は住んでいました』
「住んで…いた……」
『はい。
 私達は何も疑わずに白い部屋に住んでいました。
 其処がどう云う場所かも、知らずに。
 私とソリティアは其処で出会いました。
 そして…数多くの兄弟達とも』
「兄弟…と云うと、まだ他にも……」
『そうです…』

隔離された白い世界。
其処で生活していた多くの青年達。

美雨の脳裏に、状況が浮かび上がってくる。
そして…見覚えの有る顔を数人、見つけた。

「兄さん…?
 それに、漣、轟……」

白衣を身に纏い、笑顔を浮かべる若者達。
確かに、彼等は今の自分の仲間達と瓜二つだ。

「これは…?」
『貴女が今見ている映像は…
 嘗て、私が体験したもの』
「だけど、これって……」

美雨は驚きの色を隠し切れぬまま
丈の母親である女性を見つめていた。

* * * * * *

「隔離施設に集められたのは
 歳が凡そ15~22際迄の男女。
 最大収容数は500人弱…」

苦しい表情を浮かべながら
ソリティアは昔を語り始めた。

「どうやってそれだけの数を集めたのですか?」
「簡単な事だ。
 奴等は子供を…『買った』のだよ」
「買った……」
「つまり、それだけ
 我が子を『売る』親が溢れていたのだ」
「……」

セカンドは言葉こそ控えたが
その表情は憎悪に満ち溢れていた。

親が子供を『売る』世界。
それが曲がり通っている世界。

「狂っている…」
「確かにな。
 だから奴等は『研究』に探求出来た」
「研究…。
 亜種人類を生み出す研究、ですか」
「そうだ。
 奴等は『ライカンスロープ』と呼んでいたが」
「ライカンスロープ…」
「獣人…とでも呼ぶか。
 獣の性質を取り込んだ新しい人類。
 それが、奴等の目標だった」
「……」

「ライカンスロープ能力を取り込む為に
 被験者の体内に獣の細胞を植え付ける。
 勿論、耐性が無い者は発狂死する」
「耐性が有る者は…?」
「極僅かだが、それでも発狂は免れん。
 脳細胞にも多大なダメージを与え
 正気では居られなくなるのだろう」

セカンドは其処迄 話を聞いて
少し疑問を感じていた。
全ての被験者が『発狂』を免れないとなると
目の前に居るソリティアはどうだったのだろうか。

「だが、奴等にとっては…
 計算外の産物も存在していた。
 500人弱も被験者を集めたのだ。
 稀な奴も居たのだよ」
「発狂を免れ、能力を開花させた存在…ですね」
「そう。それが…亜種人類だ」

ソリティアは少しだけだが
優しく微笑んでいた。
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