Zugzwang

最終血戦編・14

「其処迄知ったのならば、説明は敢えて必要無かろう」

ソリティアは疾風を見つめながら
静かにそう呟いた。

「蝙蝠のツヴァイ」
「?」
「嘗てのお前の名前だ、セイリュウ。
 …否、お前の先祖の名前、と言うべきか。
 子孫にして転生体。
 一言で表現するのはなかなか難しい」
「突然そう呼ばれても
 此方としては同意しかねる」

疾風は冷静にそう返し、ソリティアの出方を伺った。
時間を稼がなければならないのは
何方(どちら)も同じ目的の筈。

「嘗ての記憶は?」
「ツヴァイとしてのか? 無い。有る筈が無い」
「そうか。無い筈、か」

ソリティアは意味深な笑みを浮かべている。

「何が可笑しい?」
「お前の持つその武器は
 確か、五鈷杵から変化した物だな」
「……」
「その技術は遥か未来に於いて
 【Zugzwangツークツワンク】が編み出した技術だ。
 現時間帯では【過去】に当たる存在のお前達が
 その武器を所有している事に聊か疑問は生じないか?」
「…何だと?」
「どうやら事情は後方に待機している
 蜥蜴のドライの方が精通している様だ」

ソリティアの視線が疾風から漣に移行する。
敵意を感じ取ったのか
瞬時に漣の前を遮る様にして轟が立ちはだかった。

「ドライは優秀な研究者だった。
 私と共にポールに師事し
 この惑星の神秘について研究を重ねてきた。
 それがやがて、この惑星の全てを
 浪費してしまう事にも気付かずに」
「貴方の話す【Zugzwang】とは…?」

轟の腕を優しく下げながら
漣は真っ直ぐにソリティアを見つめて問う。

「僕は、真実が知りたかった。
 説明出来ない記憶の理由を。
 それが今、漸く解った気がする。
 僕達は…ただ味方同士で
 殺し合っていただけだったのか、と」
「それに対する回答は【Yes】であり【No】である」
「どう云う事?」
「パラサイダーを率いている以上
 我々はお前達の【味方】ではない。
 明確な【敵】である。
 我々パラサイダーは【Zugzwang】が
 この世界に残した【悪意そのもの】に過ぎない」
「だから、全てを消し去りたかったんだよね」
「「丈っ?!」」
「ファースト様……」

静かに扉が開き、丈と美雨が揃って姿を見せた。
ソリティアも又、優しい笑みを浮かべている。

「漸く会えたな、息子よ。
 そして……」
「大丈夫です。
 貴方の最愛の方から
 ちゃんと『全てを』引き継ぎましたから」

意味深な美雨の言葉に
ソリティアは深く頷いていた。
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