Sacrifice

最終血戦編・15

嬉しそうなソリティアとは対照的な
丈、美雨の憂いの表情。
疾風は只ならぬ二人の様子に
嫌な気配を感じ取っていた。

「覚悟は、出来ている様だな」

ソリティアのその言葉に
二人は静かに頷いた。

【覚悟】

それが何を意味しているのか。

「勾玉の力を開放します」

丈は静かに返事をした。

「勾玉の力を…?」
「開放、する?」
「ソリティア」

鋭い声で疾風はソリティアを呼んだ。
彼の思惑を理解出来ているのだろう。
ソリティアは微笑みを浮かべたまま
黙って疾風を見返した。

「覚悟、とは?
 その意味を、この二人は知っていると?」
「丈は最初から理解している。
 記憶が一時的に失われていた様だが
 己の能力の開花と共にそれをも取り戻した様だ。
 そして美雨は、己に流れる
 【紅き鷹のフュンフ】の血が
 彼女を【神子】へと導いた」
「疾風」

丈が疾風の名を呼ぶ。
とても優しく、そしてとても悲し気に。

「丈…」
「俺はこの瞬間の為に
 生命を永らえて来た。
 この惑星を救いたいと云う
 両親の願いを叶える為に」
「……」
「漸く、その願いが叶う時が来た。
 皆の御蔭で。そして…」
「……」
「疾風。
 この時代に連れて来てくれて、ありがとう」

丈は笑っていた。
だがその両眼からは
涙が止め処なく流れ落ちている。

疾風は全てを察した。
【覚悟】の意味も。
この後、自分達が迎える事も。

「これじゃまるで…
 丈はこの惑星の【生贄】になる為だけに
 生まれてきた事になるじゃないかっ!!」

激怒した疾風の叫びに対し
誰もが言葉を失った…かの様に思えた。

「それは違うよ」

否定したのは他でもない
実の妹、美雨だった。

「美雨…?」
「兄さん。ずっと言ってたじゃない。
 雨の上がった世界を知りたいって」
「しかし、それは……」
「私達は偶然の産物なんかじゃない。
 ちゃんと意志を持って生まれてきた。
 その意志で、この惑星を救おうと戦って来た。
 そうでしょ?」
「それは…。しかし……」
「このままじゃ、近い将来
 全ての生命が消え去ってしまう。
 エネルギーを失い、暴走した
 この惑星の消滅と共に」

美雨の言葉に、その場に居た者達が
驚きの表情を浮かべた。
事情を知るソリティア、丈を除いて。
Home Index ←Back Next→