水の砦

最終血戦編・6

まるで水の中を思わせるような通路だった。
大昔に存在していたとされる海は、
こんな感じだったのだろうか。

漣は一歩ずつゆっくりと進んで行く。

「人の気配がする。誰が居るのか?」

武器をいつでも使用出来るように、と
漣はポケットに手を忍ばせた。

「やはり居る。複数?
 居る事は確かなんだけど、見られている気配が
 そこかしこから感じるのは何故だ?」

神経を研ぎ澄まし、更に周囲の気配を探ってみる。

「そういう事か」

そう呟くと漣は瞬時に
五鈷杵を三叉槍(トライデント)に変化させた。

「目の正体はこの監視カメラ!
 複数設置する事で大勢に見られているような
 錯覚を生じさせたのか」

片っ端からカメラを破壊していくと、
確かに気配の数も減っていった。
最後に残った気配の場所、
青い壁に向かって槍の切っ先を向ける。

「隠れん坊はお終いだよ」
「ふふ、正解を引き当てたようだな」

其処から姿を現したのは武装したハートであった。
両腕は鞭と化している。
この戦いに備えて自ら改造したのだろう。

「XX型パラサイダーか。
 希少数と言われていたけど、
 この目で見るのは初めてだ」
「お褒めにあずかり光栄だよ、レジスタンス。
 しかし私は只のXX型パラサイダーではない。
 四天王が一人、名はハート」
「君が最後の一人だったのか…。四天王、ハート」

「私を戦場に立たせるとはな。
 なかなか見事だと行っておこう。
 しかし、その快進撃もここまでだ。
 私の全てを賭けて貴様を此処で仕留めてみせる」
「そうはいかない。
 僕もレジスタンスの一員として、
 全力で君を退けてみせる!」
「貴様、名は?」
「漣。君達が玄武と呼ぶ者だ」
「成程…。
 共に後方支援の者が前線に現れたという事か。
 奇遇だな」
「宿命…かもね」

漣の言葉にハートは意味深な笑みで返す。
そして、それが戦いの幕開けとなった。

* * * * * *

長い、長い廊下。光はその先から此方に向かっている。
足を止め、真っ直ぐにその先を見つめるが まだ何も見えない。

「この先に待つ者…。この殺気…。
 判っている。待っている。…奴だ」

丈は静かにそう呟くと、再び歩を進めた。
一歩、又一歩と時間が動き出す。
自分が足を止めても尚、時間は止まる事が無い。
何処に向かって行くのか、それも解っている。
終焉へ。そして、新世界へ。

「もう退く訳にはいかない。
 未来は判っている。
 だが、俺が進まなければ開かない未来だ」

大切な人達の為に進むと決めた道。
彼等の為に出来る事と誓った、今の行動。
全ては、愛する人々の為に。

「それは嘗ての俺と同じ想い、誓いだ。
 父さんなら…解ってくれる筈。
 俺は何も変わっちゃいないって事を。
 その為にも……」

右手の五鈷杵を強く握りしめる。
鼓動を共有する感覚が全身を包み込む。

「俺は退く訳にはいかない」

決意新たに、再び丈は走り出した。
自身が見たゴールに向かって。
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