大地の砦

最終血戦編・7

一歩ずつ前を進んで行く毎に強くなる【血】の臭い。
パラサイダーの本拠地ともなれば
そう云う物なのだろうか。
この臭いは昔を髣髴とさせる。

最愛の女を喪ったあの日を。
そして、生まれ変わったあの日を…。

「この力に目覚めてから今迄
 戦い続ける事で
 俺は一体何を掴んだんだろうか、なぁ?」

幻の彼女は微笑んでくれている様だった。

「お前の下に逝きたいと願っていた俺は
 一体何処に行っちまったんだろうな。
 今はお前の分まで生きたいと願ってる。
 お前と共に過ごしてきた、この場所で」

彼女は微笑んだままだ。
まるで轟の意志を肯定するかの様に。

「この戦いが恐らく最期になるだろう。
 だからこそ、俺の持つ力の全てを開放する。
 全てを、終わらせてやるさ」

己の手に宿る勾玉を見つめながら轟は笑みを浮かべた。

* * * * * *

其処に蹲っていたのは【黒い獣】だった。

唸り声を上げながら肉を貪り食らう姿。
微かに残った布の残骸から
それがダイヤであった事を推察する。

嘗ての理知的な青年の姿は何処にも無い。
自身を獣人に改造する事で
彼は勝利を渇望したのだろう。

轟に驚きは無かった。

ただ…『空しい』とだけ、感じた。

「これが俺の敵…とはね。
 最早会話も期待出来ない。
 血に飢えた只の獣……」

同じ獣人化とはいえ、轟は理性を残して戦える。
パラサイダーであるダイヤにはそれが叶わなかった。

「誰かに聞いてみたいぜ。
 俺と奴の違いは何なんだ?ってな」

ダイヤが此方の動きに反応を見せている。
闘いたいのだろう。
自身の鼓動の高鳴りを感じながら、轟はそう思った。

「同じだぜ。俺も闘いたかった。
 闘って、貴様を倒したかった」

部屋中に響く重低音の唸り声。
直後に勾玉が激しく輝き出し、眩しい光が轟を包み込んだ。

* * * * * *

轟の雄叫びは他の砦にも届いていた様だ。

疾風とクラブは壁に身を潜めながら。
漣とハートは間合いを詰めている最中に。

そして、長い廊下をひた走る丈の耳にも。

「何て悲しい雄叫びなんだ…」

丈にはまるで轟の血の叫びの様にも感じた。

「終わらせるんだ。此処で、全て」

それしか救いの道は無い。
人類も。亜種人類も。そして、パラサイダーも。

長い長い廊下も漸くその先が見える迄となった。
その先に在る扉と、奥から放たれる殺気。
気圧される事無く突き進み、丈は扉を勢い良く開いた。
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