パラサイダーの本拠地ともなれば
そう云う物なのだろうか。
この臭いは昔を髣髴とさせる。
最愛の女を喪ったあの日を。
そして、生まれ変わったあの日を…。
「この力に目覚めてから今迄
戦い続ける事で
俺は一体何を掴んだんだろうか、なぁ?」
幻の彼女は微笑んでくれている様だった。
「お前の下に逝きたいと願っていた俺は
一体何処に行っちまったんだろうな。
今はお前の分まで生きたいと願ってる。
お前と共に過ごしてきた、この場所で」
彼女は微笑んだままだ。
まるで轟の意志を肯定するかの様に。
「この戦いが恐らく最期になるだろう。
だからこそ、俺の持つ力の全てを開放する。
全てを、終わらせてやるさ」
己の手に宿る勾玉を見つめながら轟は笑みを浮かべた。
其処に蹲っていたのは【黒い獣】だった。
唸り声を上げながら肉を貪り食らう姿。
微かに残った布の残骸から
それがダイヤであった事を推察する。
嘗ての理知的な青年の姿は何処にも無い。
自身を獣人に改造する事で
彼は勝利を渇望したのだろう。
轟に驚きは無かった。
ただ…『空しい』とだけ、感じた。
「これが俺の敵…とはね。
最早会話も期待出来ない。
血に飢えた只の獣……」
同じ獣人化とはいえ、轟は理性を残して戦える。
パラサイダーであるダイヤにはそれが叶わなかった。
「誰かに聞いてみたいぜ。
俺と奴の違いは何なんだ?ってな」
ダイヤが此方の動きに反応を見せている。
闘いたいのだろう。
自身の鼓動の高鳴りを感じながら、轟はそう思った。
「同じだぜ。俺も闘いたかった。
闘って、貴様を倒したかった」
部屋中に響く重低音の唸り声。
直後に勾玉が激しく輝き出し、眩しい光が轟を包み込んだ。
轟の雄叫びは他の砦にも届いていた様だ。
疾風とクラブは壁に身を潜めながら。
漣とハートは間合いを詰めている最中に。
そして、長い廊下をひた走る丈の耳にも。
「何て悲しい雄叫びなんだ…」
丈にはまるで轟の血の叫びの様にも感じた。
「終わらせるんだ。此処で、全て」
それしか救いの道は無い。
人類も。亜種人類も。そして、パラサイダーも。
長い長い廊下も漸くその先が見える迄となった。
その先に在る扉と、奥から放たれる殺気。
気圧される事無く突き進み、丈は扉を勢い良く開いた。