炎の砦

最終血戦編・8

真っ赤な扉を開けると、
奥には見慣れた男が立っていた。
両手の先端が鎌と化している。

「久しぶりだな」

そう言ってスペードは笑っていた。

「あぁ」
「良い面構えになった」
「…此処には誰も居ない様だな」
「当たり前だ。
 俺とお前の真剣勝負に邪魔する奴は
 誰であろうと許さねぇ」

スペードにとってやはりこの戦いは
あくまでもゲームの一種に過ぎないのか。
丈はそう考えていたのだが。

「これが最期だからな」
「…スペード?」
「お前とこうして戦えるのもこれが最期。
 俺が気付かないとでも思ってるのか?」

スペードは鎌状の右腕で丈の左手を指した。

「もうお前には炎の呪が使えない。
 どう云う理由かは知らねぇけどな」
「……」
「理由なんざどうでも良い」

スペードは まだ笑っていた。

「お前は強くなった。
 呪等に頼らなくてもな」
「スペード、お前は…?」
「俺は強い奴が好きだ。
 強さに敵も味方も関係無ぇ。
 俺の喜びは強い男と戦う事、
 そして倒す事だけだ」

実に解り易い戦う理由である。
最初からスペードには揺らぎが無い。

「俺を倒してみろ、スザク。
 俺の背後にある扉は
 総帥の座へと続いている」
「…何故?」
「会いたいのだろう? あの方に」
「スペード…」
「俺を倒して先に進め。
 …倒せればの話だがなっ!」

床を蹴り、スペードが突撃を掛ける。
振り下ろされた両手の鎌を
丈は五鈷杵で受け止める。

「倒してみせるさ…。
 俺は、会わなければならないんだ。
 あの人と、父さんとな…っ!」

鎌を振り払い、五鈷杵を構える丈に
スペードは笑みを浮かべていたが。

「それで良い。本気で来やがれ」

スペードの目付きが瞬時に変わった。
今迄の狩人の姿ではない。
初めて見せる戦士としての姿が其処に在った。

『俺を認めたと云う事か、スペード。
 これが最期の戦い。
 俺にとっても、あの男にとっても…』

火花を散らしながら互いに打ち込むも
その身には届かない刃。
それでも何処か楽し気な様子で
二人は戦いを繰り広げていた。

互いに、気付いていた。
皮肉なものだと。
初めて相対した時から
互いを好敵手と認識してきた。
こうして何度も戦いを繰り広げた事で
互いに戦士として成長して来たのだ。

だが、それも間も無く終わるだろう。
この戦いの末に生き残るのはどちらなのか。
戦いの終結に向かって
二人は激しく刃を打ち合い続けていた。
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