決着・1

最終血戦編・9

強化した筈のダイヤの攻撃は
白き虎と化した轟には全く通用しなかった。
スピードも破壊力も
黒い獣となったダイヤはまるで敵わない。
一方的に轟の攻撃を受けるのみ。

『これが俺とお前の【差】だったんだよ』

轟はそれでも容赦無く攻撃を加える。
全てを終わらせる為には
相手を完膚無き迄に叩き潰すしかない。
戦場での絶対的な掟。

だが、轟はここで変身を解除した。
人の姿に戻り、構える。
既に瀕死状態のダイヤは
最期の攻撃を繰り出す寸前だった。

「終わりだ」

轟の右の拳が唸りを上げて
ダイヤの頭部を粉砕した。
勢いよく壁に叩き付けられた胴体は
暫くピクピクと動いていたが
それも少しずつ鈍くなり、
やがて完全に動きを止めた。

「漸く、敵を取ったぞ……」

復讐の戦いが漸く終わった。
それでも、彼の戦いはまだ終わらない。
轟はダイヤの後ろに配置されていた扉を蹴破ると
拠点の最奥地目指して走り出した。

* * * * * *

「はぁ…はぁ……
 こんなに強いとは、ね…。
 恐れ入ったよ……」

ハートは苦笑いを浮かべて漣を見る。
自分と同じ後方支援型だと安心したのが運のつき。
他の三人と大差無い
その戦闘能力の高さに気付いたのが
明らかに遅過ぎた。

「人は見た目によらない。
 君の強さも、想像以上だ」
「こんな時に世辞等不要よ」
「お世辞なんかじゃないさ。
 本当にそう感じたから、そう言っただけ」
「……」

敵で無ければ、良かった。
今迄感じた事の無い思いが
急速にハートを支配していく。
出会いがもっと早ければ
いや、いっそ敵対していなければ。

「こんな出会いでなければ……」

思わず口を突いて出た弱音。
ハートは慌てて口を塞いだが
漣は柔らかな笑みを浮かべて頷いた。

「僕も同じさ」
「ゲンブ……」
「もっと違う形で出会っていたら
 僕達はきっと、仲良くなれたと思う」

不思議な気分だった。
今迄、幾ら食事をしても満たされなかった心が
漣の一言でこうも穏やかになるとは。
認めたくなかったメスの、否 女の部分が
ハートを後押ししているかの様だ。

「ゲンブ、お前は…」
「漣、だよ。僕の名前」

漣は笑っている。
此方に敵意が無い事を感じ取っているのか
彼は五鈷杵を下げていた。

「さざ……」

彼の名を呼び掛け、不意にハートは天井を見上げた。
大地の塔での激戦の影響が
この水の塔に迄 及んでいたのだ。

「っ!!」

ハートは己の腕を鞭ではなくロープとして使用し
漣の体に巻き付けると
力づくで引き寄せた。
その直後
漣の頭上にあった天井が抜け、崩落する。

「ハート…?」

漣は自分がハートに救われた事を悟り
慌てて彼女に駆け寄った。
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