Calma prima della tempesta…

ボブはしっかり2日後に
依頼した商品を届けに来た。
受け取るのはいつも紗羅。

海はその頃、外に居た。

珍しく表の仕事に汗を流す。
イライラとCABINを噛みながら
迷子猫の捜索だ。

「捨てたの間違いじゃないだろうなっ?!」

竹薮に入り、暫く中を彷徨う。
適当に歩いていたら疲れた。

元々朝も昼も苦手だ。
夜行性の体が根を上げる。

「休もう…」

太い竹に縋り、
葉の隙間から青空を見つめた。

今回の依頼は裏がある。
だから金を貰って返し刀で依頼者を消す。
本能と云うか、
自分が生き残る術は直ぐに考えが纏まる。
現にそう云う行動を起こした事も有った。
意図せず、逆に追い込まれたのだが。

油断すれば消されるのは自分だ。
そして、関係者である
Orologioの夫婦も、亮も。

「まぁ…あの淫魔は死なねぇがな」

雲が静かに流れていた。
やがてウトウトとその場で昼寝を始める。
無警戒だったからか、
海の周りに猫達が集まってくる。
この男、何故か昔から動物には好かれる。
探してた猫もその中に居た。

飼い主に返すのが幸せか、
この群れに居た方が幸せか。
グッスリと眠る海に
そんな事を考えている余裕は無かった。

* * * * * *

「いつも有難うね、ボブ」

紗羅は紅茶を差し出し、微笑む。

「カイは僕の大切な人ネ。
 コレ位 Before Breakfast」
「?」
「『アサメシマエ』?」
「あぁ。そう云う事…」

流石に英語迄は解らないか。
紗羅は頭をポリポリと掻いた。

「語学は苦手なのよね~」
「シャラはJapanese only?」
「何が?」
「相手ネ」
「そうね~。国籍は問わないけど。
 今はマスターだけかな?
 ああ見えて、意外と焼餅妬くのよ」

「カイらしいね。
大人だけど子供」
「そうね。まるで子供」

二人は顔を見合わせて笑った。

「子供だから出来る
危険なGAME…。
カイの仕事はGAMEそのもの」
「危険度が高い程
喜んでるんだもん。
パートナーは堪んないわ」
「Niceパートナーよ、シャラ」
「ありがと、ボブ」

穏やかに時間が流れていく。
束の間の平和。

テーブルの上では
書類がソヨソヨと風に靡いていた。

「コレが今度の仕事…」
「そ。なかなか厄介よね」
「G関係者絡みの殺し…。
 穏やかじゃないネ」
「政治関係者が殺しの依頼だなんて
 全く、世も末よね」
「同感、同感」

ボブは実に美味そうに紅茶を嗜む。
2人の姿を見ているだけでは
まさかそんな恐ろしい計画の中心人物達だと
誰も気が付かないであろう。

* * * * * *

取り敢えず表の仕事を終え、
不愛想に海は事務所に帰って来た。

「お帰り、マスター」
「メシ」
「はいはい…。
 本当にいつもいつも、
 表家業は やる気が全く無いのに。
 今回に限っては珍しい事で」
「ガキは嫌いだ…」
「はいはい、そうですか」

依頼人は子供だった。
たった一人の友達で在る
仔猫を探して欲しい。
ありったけの小遣いを片手に
海に頼み込んで来たのは今日の朝。

結局依頼料は貰わず
海は気紛れに仕事を引き受け、
無事に完了させた。

「ありがとう、おじちゃん!!」

その言葉が今でも耳に残る。
元気に溢れた子供らしい声。

「偽善者…」
「え? 何?」
「独り言だ」
「…そう」

ソファに寝転び、
満足げに抱き合う少年と猫を思い出した。

「俺も【おじちゃん】かよ」
「オジちゃんじゃない」
「何でだよ?」
「30歳超えたらオジちゃんで充分!」

思わず笑いが漏れた。
皮肉な笑いではなく
自然な笑いだった。
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