Eroe Della Giustizia?

日のすっかり暮れた公園。
その街灯の下。
激しく愛し合う男女達。

燃える様に、踊る様に。
女は高らかに声を上げ、
男の動きに怪しく合わせる。

誰もが遠慮してその場を立ち去る。
そんな周囲を気にする事無く、
二人の情事は果てしなく続いていく
…様に思えた。

「お前等…。
 場所を弁えるってのが無いな。
 これで何回目だ?」

叢に潜んで情事を観覧しているカップルに
亮はコッソリと声を掛ける。

「通報でも有ったのか、亮?」
「無いよ。偶然だ」

男は漸く亮の方に顔を向けた。

「で…何か用か、亮?」
「海…」

呆れ顔の亮に対し
海は無邪気に微笑んで見せる。

「で、其処に居るのは…」
「は~い、警部補!
 アタシよ!!」
「紗羅。君ねぇ~」

亮は呆れて溜息ばかり吐いていた。

「何をしてるんだ、何を?」
「見学」
「何の…?」
「青姦」
「海……」

呆れて二の句が告げない亮だが
何とか言葉を紡ごうとする。

「一寸海に聞きたい事が有ったんだ」
「何だよ?」
「私立探偵として、どう思う?
 今回の事件」
「怨恨だろ?」

「それは解る。だが…」
「腕、か?」
「あぁ。プロの仕業だな、ってね」

「良いの、亮さん?
 マスターは一応部外者よ。
 そんな事迄話しちゃって…」
「こう見えて口は堅い。
 海は信用出来る相手だからな」
「へぇ~。そんなモン?」

訝しげな紗羅の頭を軽く小突き、
海はCABINを銜えた。

「…犯人像が見えないんだな」
「あぁ。残念ながら…」
「…依頼か?」
「本来なら、そうするべきだな。
 だが…」
「【上】が許さない」
「その通りだ」

「厄介な職場だな。
 相変わらず」

煙草の煙をフッと吐き出す。
白い煙が夜空に溶けて消えた。

「まぁ…日本にも
 プロのスナイパー位潜んでいるだろう。
 此処も楽園じゃない」
「そうだな…。
 願わくば…」
「?」

「そのスナイパーが
 正義の味方である事を祈るよ」
「この世に【正義】なんて有るのかねぇ~」

意味深な発言の海を
亮は黙って見つめていた。

* * * * * *

その頃、Orologio。

カウンターがギシギシ軋む。
夫婦だけの、大切な時間。

カラン
不意にドアのベルが鳴った。

「あ…っ!」

其処に立っていたのは海だった。

「か…海さんっ?!」
「無用心だな。
 鍵位、閉めておけ」
「は…はい…」

唖然とするあずきに、
海は「ブレンド」と注文した。

この男、他人の行為を見ても動じない。
寧ろ見学するのが趣味なのかも知れない。

「あずちゃん…ブレンドね」
「は、はいはいっ!!」

見られた方、特に女性は堪らない。

実は今回が既に何度目かの目撃で
その度に慌てるのは夫婦の方。
海は平然としている。

不思議な男だと思うあずきであった。
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