その街灯の下。
激しく愛し合う男女達。
燃える様に、踊る様に。
女は高らかに声を上げ、
男の動きに怪しく合わせる。
誰もが遠慮してその場を立ち去る。
そんな周囲を気にする事無く、
二人の情事は果てしなく続いていく
…様に思えた。
「お前等…。
場所を弁えるってのが無いな。
これで何回目だ?」
叢に潜んで情事を観覧しているカップルに
亮はコッソリと声を掛ける。
「通報でも有ったのか、亮?」
「無いよ。偶然だ」
男は漸く亮の方に顔を向けた。
「で…何か用か、亮?」
「海…」
呆れ顔の亮に対し
海は無邪気に微笑んで見せる。
「で、其処に居るのは…」
「は~い、警部補!
アタシよ!!」
「紗羅。君ねぇ~」
亮は呆れて溜息ばかり吐いていた。
「何をしてるんだ、何を?」
「見学」
「何の…?」
「青姦」
「海……」
呆れて二の句が告げない亮だが
何とか言葉を紡ごうとする。
「一寸海に聞きたい事が有ったんだ」
「何だよ?」
「私立探偵として、どう思う?
今回の事件」
「怨恨だろ?」
「それは解る。だが…」
「腕、か?」
「あぁ。プロの仕業だな、ってね」
「良いの、亮さん?
マスターは一応部外者よ。
そんな事迄話しちゃって…」
「こう見えて口は堅い。
海は信用出来る相手だからな」
「へぇ~。そんなモン?」
訝しげな紗羅の頭を軽く小突き、
海はCABINを銜えた。
「…犯人像が見えないんだな」
「あぁ。残念ながら…」
「…依頼か?」
「本来なら、そうするべきだな。
だが…」
「【上】が許さない」
「その通りだ」
「厄介な職場だな。
相変わらず」
煙草の煙をフッと吐き出す。
白い煙が夜空に溶けて消えた。
「まぁ…日本にも
プロのスナイパー位潜んでいるだろう。
此処も楽園じゃない」
「そうだな…。
願わくば…」
「?」
「そのスナイパーが
正義の味方である事を祈るよ」
「この世に【正義】なんて有るのかねぇ~」
意味深な発言の海を
亮は黙って見つめていた。
その頃、Orologio。
カウンターがギシギシ軋む。
夫婦だけの、大切な時間。
カラン
不意にドアのベルが鳴った。
「あ…っ!」
其処に立っていたのは海だった。
「か…海さんっ?!」
「無用心だな。
鍵位、閉めておけ」
「は…はい…」
唖然とするあずきに、
海は「ブレンド」と注文した。
この男、他人の行為を見ても動じない。
寧ろ見学するのが趣味なのかも知れない。
「あずちゃん…ブレンドね」
「は、はいはいっ!!」
見られた方、特に女性は堪らない。
実は今回が既に何度目かの目撃で
その度に慌てるのは夫婦の方。
海は平然としている。
不思議な男だと思うあずきであった。