あずきの動きを確認していた。
「あずちゃん、先に寝ててよ」
「う…うん。それじゃ…」
名残惜しそうに二階へ上がるあずき。
その姿を確認してから
竜兵が口を開いた。
「粘ったよ、交渉。
でも7億5千万が上限」
「足元見てやがるのか?
断っても良いぜ」
「…海さん」
「どうする、竜?」
「…出来れば受けて欲しい。
報復が怖いからね」
「…依頼人も消すか。
金、受け取ったら」
「無いかも知れないね、依頼料」
「タダ働きか…」
「アレ関係だからね、相手」
「…誰でも良いさ。
金さえ出せばな」
「そんなにお金が必要なの?
生活は質素だけど…」
「野暮用でな」
海はCABINを銜えた。
「…要るんだよ、金。俺以外に」
「…ふぅ~ん」
珈琲のお替りを差し出し、
竜兵は欠伸を噛み殺した。
「眠いのか?」
「少しね…」
「後でサービスしてやりな。
途中だっただろ?」
「誰の御蔭で…」
「はは、済まなかったな」
悪気も無く海は笑う。
幼い笑みで。
「不思議な人だよ、海さんは」
「何が?」
「無邪気な顔して
危険な仕事を楽しんでる。
不思議な魅力が有る…」
「褒めても何も出ないぜ」
「紗羅ちゃんが惚れるのも
解る気がするなぁ~」
「紗羅が?」
「違うの?」
「只のビジネスパートナーだよ」
「勿体無い。
あんな美人を…」
「お前の嫁さんも可愛いじゃねぇか」
「取らないでよ!」
「人妻は範疇に無い」
「独身専門だっけ?」
「高慢ちき専門」
「女のプライド踏み潰すの好きだね」
「男の鼻をへし折るのも好きだぜ」
「はいはい…」
竜兵は溜息を吐いた。
満月が綺麗な夜だった。
こんな日はふと思い出す。
2年前の或る日。
初めて人間界に来た時の事。
「ふふ…あれから2年か。
早いものね」
紗羅はゆっくりと公園を闊歩し、
事務所へと戻っていった。
「今頃マスターは竜ちゃんと打ち合わせか」
そう言いながら
広いベッドに体を投げ出す。
微かに香るCABINの煙。
「煙草が食事?
一日何箱吸えば気が済むのかしら」
呆れながら灰皿を片付けると
ふと机の上の資料が目に留まった。
「…G関係者からの
トップシークレットか。
この世界も汚れてるわよね」
溜息を吐きながら
再度資料を見てみる。
「普通のスナイパーじゃ先ず無理ね。
マスターの腕があればこそだけど、
それでも成功率は半々か…」
人間離れした依頼。
確かに3億円は安過ぎるかも知れない。
「どうなるかしら…」
椅子に座り、紗羅は大きく伸びをした。